研究課題/領域番号 |
26330178
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研究機関 | 東京工科大学 |
研究代表者 |
菊池 眞之 東京工科大学, コンピュータサイエンス学部, 講師 (20291437)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 視覚情報処理 / 脳 / 物体認知 / 心理物理実験 / 神経回路モデル / 境界所有性 |
研究実績の概要 |
脳の視覚系において,3次元物体がどのように脳内表現されているのかを探るべく,脳波計を用いて物体外部・表面・内部の各部に受容野を持つ細胞集団を特定の上で,それらの細胞集団間の活動の同期度を調べる実験をデザインしている.27年度は多チャンネルに混合された形で計測される脳活動データから脳内の信号源を抽出するためのデータ解析ソフトウェアの使用準備を整え,またハードウェアとしても最大64chで計測できるEEGシステムの導入を行うなど,今後の本実験実施によるデータ取得・分析の基盤を構築した. 一方,物体の境界が接する2領域のうちどちら側が境界を所有するかというborder-ownership(以下BO)が表現されていることが2D刺激の実験で明らかになっているが,この性質を3D物体境界に拡張したsurface-ownership(以下SO)として成立することを26年度に続き27年度の心理物理実験結果の解析で明らかにした.このSOにまつわる性質として,滑らかな同一局面に帰属する局所面パッチ群のSO極性が同一/相反する場合の面統合について調べる心理実験の準備を進めた.RDSにより単一3D円錐表面を見やすく表現するための刺激呈示の工夫を行い,今後の複数の円錐刺激を使用した本実験の実施の目途を立てた. 前年度から進めている3次元表面形状マッチング課題の心理実験では,リファレンス刺激とテスト刺激とのSO極性が一致する場合のほうが不一致の場合より正答率が高いことを更なる分析により解き明かした. また,上述の物体境界所有性の生起のメカニズムに関しては,境界に沿った局所的な曲率情報の伝播と同一受容野箇所における相反する2極性BO同士での競合を想定した本研究課題代表者の提案したモデルの反応確定までの所要時間の長さの問題が,ネットワークの階層化や,small world性の考慮により緩和されることを見出した.得られた結果は3DのSO決定モデルの基盤を提供するものとなる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画に含まれていたサブテーマのうち,脳波計測による物体の内部・境界・外部に対応する受容野位置の細胞群同士の反応の同期・非同期について調べる実験が準備段階にあること,また滑らかな大域的表面に沿って配置される錐体状の局所刺激群の底面同士の統合知覚課題として,大域的表面に対して錐体本体の側が一致している場合と2サイドに渡り配置される場合とで統合のされ易さを比較する実験についても準備段階にあることなど考慮に入れる必要がある.一方で当該研究課題の最終年次の展開の基盤に関わってくる新しい知見が得られていることも加味して考えると,総合的にはやや遅れているとの区分が適合すると考える.
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今後の研究の推進方策 |
まず,準備段階に置かれていたサブテーマの研究を実施に移す.これは本研究課題代表者の運営する研究室の新年度メンバーで分担して取り組んでゆく計画を立てている.そして最終年度に予定されていたサブテーマの研究も,同じく研究室メンバーの協力も得つつ推進してゆく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は国際会議での発表を予定していたところ,研究成果が得られたのが年度内の遅い時期となったために,当該年度は申し込みから発表までの期間が長く,かつ参加のための諸経費の金額も大きい国際会議での発表ではなく,申し込みから発表までの期間が短く経費も少ない国内研究会のみでの発表となったこと,ならびに実施を計画していたサブテーマの実験の基礎技法の習得に時間を要し,当初の計画に対して遅延が生じたことで予備実験の段階に留まり,本実験実施に至っていないため謝金支出が発生しなかったこと,などの理由により次年度使用額が発生するに至っている.
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次年度使用額の使用計画 |
28年度の実施に持ち越された27年度実施予定の脳活動計測実験・心理物理実験の本実験実施費用(被験者謝金支出・脳波計電極等の消耗品購入)に10万円程度を充て,当初の予定通り28年度に実施予定となっている脳活動計測実験の実施の費用に5万円程度を充てる.また,28年度に実施予定の神経回路モデル研究のシミュレーション実施のための並列計算用ハードウェア購入の資金に60万円程度を充てる.そして,それらの研究の成果を国際会議の場で発表するための費用や論文誌投稿費用等に残りの金額を充てることを計画している.
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