研究課題/領域番号 |
26330179
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山崎 優子 北海道大学, 文学研究科, 専門研究員 (20507149)
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研究分担者 |
石崎 千景 九州国際大学, 法学部, 准教授 (00435968)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 裁判員裁判 / 量刑格差 / テキストマイニング |
研究実績の概要 |
裁判員裁判(殺人、強盗致傷、強姦致傷、覚せい剤の密輸事件など)の判例を分析し、同種事件でどの程度の量刑格差がみられるか検討を行った。その結果、罪名が殺人罪のみのケースで、量刑の幅は大きい傾向にあった。 次に、上記で示された量刑格差を生じさせる要因が何であるか、検討を行った。具体的には、テキストマイニングにより、量刑が10年以上の懲役刑、10年未満の懲役刑、執行猶予付きで量刑理由を形成する語彙に異なる傾向がみられるか検討した。その結果、(1)10年以上の懲役刑のケースでは「殺意」、「計画」、「遺族(の感情)」、「前科」が、量刑が10年未満の懲役刑のケースでは「自首」、「障害」が、量刑が執行猶予付きのケースでは「精神」、「状態」の出現頻度が高い傾向にあった。(2)量刑が10年未満の懲役刑、執行猶予付きの場合、10年以上の懲役刑のケースよりも、「介護」の出現頻度が高い傾向にあった。(3)精神障害、認知症などを患った家族に対する長年の介護が原因で、心身共に疲弊して追い詰められた末の犯行と認められた場合、執行猶予がつくなど量刑が軽くなる傾向にあった。(4)犯行の原因が被告人の精神障害にあると認められる場合、再犯可能性があるとの理由から、量刑が重くなるケースがみられた。(5)被告人が少年のケースでは、必ずしも更生、矯正教育の観点から量刑が下されない傾向にあった。この傾向は、罪名が殺人罪のみのケースだけでなく、強盗罪のケースにもみられた。以上から、犯行の計画性、被害者遺族の感情、再犯可能性が量刑を重くする要因として、犯行時の被告人のおかれた状況に対する同情心が量刑を軽くする要因として作用し、量刑格差を生じさせていた可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
26年度の研究計画に沿って、2000件以上の判例に対して分析を行なった。研究成果の発表についても、今後、積極的に行っていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、量刑格差を生じる要因の背後にある因子を明らかにし(研究2)、望ましくない要因を統制することが量刑格差を低減するかについて明らかにすること(研究3)を目的とする。具体的な研究方法は下記のとおりである。
【研究2】市民を対象にした調査を実施し、研究1で明らかにされた同種事件で量刑の格差を生じる複数の事件について、量刑判断を求めるとともに、研究1で抽出された各要因が量刑判断に及ぼす影響について、9件法で回答を求める。得られた結果から、量刑格差を生じる要因の背景にある心的要因を抽出し、それらが、個人特性(たとえば、攻撃性、権威主義傾向)などとどのように関連するか明らかにする。 【研究3】研究1で、同種事件の裁判官のみによる裁判と裁判員裁判の量刑の格差、 同種事件の裁判員裁判での量刑格差がとくに顕著であった事件それぞれをとりあげ、模擬裁判実験を実施する。その際、参加者を、①研究1、2で明らかにされた量刑格差の要因を除外する(法律に対する知識不足が要因である場合は、必要な知識を教示し、その知識が十分に理解できたうえで模擬裁判に参加してもらう)条件と除外しない条件、②先行研究で指摘されていた量刑格差を生じる要因を除外する(たとえば、個人特性に偏りのないように評議体を構成し、量刑判断を導くプロセスを統一する)条件と除外しない条件に無作為に割り当てる。得られた結果から、同種事件での模擬裁判において、条件間で量刑がどの程度異なるかについて明らかにする。分析にあたっては、量的分析に加え、評議での発話データの質的分析(テキストマイニング)を行なう。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外での研究発表を行わう予定であったが、研究を遂行するうえで必要な経費が当初予定していた金額よりも多く必要となり、渡航費用が十分に確保できなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の海外発表の経費に充てる計画である。
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