研究課題/領域番号 |
26330179
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山崎 優子 北海道大学, 文学研究科, 専門研究員 (20507149)
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研究分担者 |
石崎 千景 九州国際大学, 法学部, 准教授 (00435968)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 裁判員制度 / 量刑格差 / 市民感覚 / 死刑制度 |
研究実績の概要 |
裁判員裁判での量刑が控訴審で覆された2つの事例(①強盗と強姦の罪で服役していた男が、出所したばかりで強盗殺人事件を起こした事例。検察の求刑どおり死刑判決が下された。②精神障害が犯行の動機に影響したと専門科医が証言した殺人事件。弁護側は保護観察付きの執行猶予判決を求めていたが、検察の求刑を上回る実刑判決が下された)と、③裁判員裁判で、検察が懲役5年を求刑していた高齢者による介護殺人事件で、執行猶予付の判決が下された事例を取り上げた。これら3つの事例における量刑判断に対して、性格特性、事件報道の参照・信頼の程度、治安に対する認識、死刑制度に対する認識が及ぼす影響について検討を行った(参加者に提示した事案の内容は、実際のものとは一部異なっていた)。 参加者が下した量刑は、①の強盗殺人事件で死刑63%、無期懲役刑36%、②の殺人事件で執行猶予付13%、求刑以下の実刑48%、求刑より重い有期刑15%、無期懲役刑21%、死刑3%、③の介護殺人で、執行猶予付69%、実刑30%であった。各事案について、量刑判断に潜在的に影響する要因を因子分析によって求めたところ、抽出された因子と性格特性、事件報道の参照等との間に有意な相関がみられた。例えば、①の強盗殺人事件については、情動的共感性(感情的暖かさ)、攻撃性(身体的攻撃)、死観(虚無)、多次元的共感性(共感的関心)、③の介護殺人については、死に対する態度(中立的受容)、正当世界信念、情動的共感性(感情的冷淡さ)、多次元的共感性(気持ちの想像)、新聞社が提供するネットでの事件報道を参照する頻度と、抽出した因子との間に有意な相関がみられた。 量刑を下す際に、「被害の大きさ」「遺族の処罰感情」等を考慮する重みづけが、性格特性や刑罰に対する認識等によって異なることから、評議体を構成する裁判員の性質によって、量刑の偏りが大きくなる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年度は、刑事裁判での同種事件における量刑格差をもたらす要因を明らかにする目的で、裁判員裁判での量刑が職業裁判官による量刑と異なる傾向がみられる3つの事案をとりあげ、性格特性(攻撃性、権威主義傾向、情動的共感性、多次元的共感性、死観、死に対する態度、正当世界信念)、事件報道の参照・信頼の程度、治安に対する認識、死刑制度に対する認識が、市民の量刑に及ぼす影響について検討を行った。検討を行うにあたっては、予備実験の結果をふまえ、144人を対象にした模擬裁判実験を実施した。その結果、量刑判断に潜在的に影響する要因を抽出し、抽出した要因に、特定の性格特性、処罰に対する認識、事件報道の信頼性等が関係することが示された。
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今後の研究の推進方策 |
必要な知識の欠如などの望ましくない要因を統制することによって、同種事件の量刑判断の偏りが軽減されるかについて、検討を行う。具体的には、模擬裁判実験を実施し、2014年度と2015年度の研究で明らかにされた量刑格差を生じる要因に加え、先行研究で指摘されていた量刑格差を生じさせ得る要因を除去することで、同種事件の量刑格差が是正されるかについて明らかにする。 模擬裁判実験は、2015年度の研究で取り上げた2つの事例(①強盗と強姦の罪で出所したばかりの男が起こした強盗殺人事件について、裁判員裁判では求刑どおり死刑判決が下された事例。②精神障害が犯行の動機に影響したと専門科医が証言した殺人事件で、求刑を上回る実刑判決が下された事例)を対象に行う。そして、事案に関連する知識(たとえば、上記②の事例の場合、精神障害者による犯罪傾向、触法精神障害者の処遇、再犯傾向についての知識)、犯罪や刑罰についての知識(同種事件の量刑の傾向、刑罰や治安についての知識)を教示やディスカッションによって十分理解させること、個人特性に偏りのない評議体を構成すること、評議内容に偏りが生じないように評議を統制すること、量刑判断を導くプロセスを統一することで、量刑格差がどの程度軽減するかについて、検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた国際学会への旅費、学会参加費を予算から支弁することが困難であったため、参加を見送り、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
国際学会への旅費、学会参加費に充てる計画である。
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