研究課題/領域番号 |
26330191
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
本谷 秀堅 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60282688)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 医用画像処理 / Point Distribution Model / 汎化性能 / q-正規分布 |
研究実績の概要 |
今年度は、臓器表面の統計的多様性を表現するために利用するモデル関数をq-正規分布へと拡張し、学習データが含む外れ値を許容するモデル構築法を実現し対外発表をおこなった。臓器表面の点群統計モデルは、(1)学習用の臓器表面データ群に対応点を生成し、(2)それら対応点の集合を解析することにより構築する。臓器モデルの階層化のために(2)の手続きに焦点を当てて今年度は研究を進めた。学習用の点群の分布の表現には従来正規分布が広く利用されてきていたが、その妥当性についての議論は手薄であった。特に正規分布を利用するとき、マハラノビス距離の意味で正規分布から逸脱しているデータが存在すると、モデルパラメータの推定精度が劣化し、この劣化にともない汎化性能が落ちることが知られている。そこで今年度は点群の分布の表現にq-正規分布を導入し、点群統計モデルの表現に利用するモデルの選択法を開発し、肝臓モデルへと適用した。q-正規分布はハイパーパラメータqを含むモデルであり、qの値を変化させると分布の裾野の広さも変化する。q=1の場合には正規分布と一致する。従来法はq=1と固定したうえで、点群より分布の平均と共分散を求めることにより統計モデルを構築していた。一方提案法では、AIC規準を採用し、汎化性能の観点より最良のモデルを学習用の点群に基づいて選択する。このことにより、臓器の部位ごとに裾野の広さの異なるモデル関数を選択できるようになった。実験の結果、肝臓表面のうち体表側の面は正規分布と同定度に裾野の狭い分布が選択される傾向にあるが、体の内側の面では裾野の広い分布が選択される傾向にあることが判明した。今年度の成果として、正規分布を臓器表面全域の表現に適用する従来法は、少なくとも肝臓の統計モデルの表現法としては不十分であり、臓器表面の部位ごとに異なる統計モデルを採用すべきであることを初めて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目標は臓器表面の階層的なモデル表現を構築することであり、問題となるのは上層における下層での表現のまとめ方である。統計モデルの下層は複数の統計モデルより構成されており、それぞれが臓器表面上の特定部位の局所的な統計的挙動を表現する。上位層では、下層におけるそれら局所モデル群の協調的な挙動をより大局的かつ少数のモデルで表現する。上位層の表現を構築する際、階層の局所モデル群をまとめる必要があり、このまとめ上げの際に何の基準についての定まった指標は今のところ知られて居らず、関連する議論が手薄である。強いて言えば目的である臓器領域抽出の性能が最良となる表現が最良であるが、臓器抽出処理をモデルを更新するたびに実施し、その結果に基づき表現を改変することは、計算量の観点からも困難であり、そもそも、抽出性能を改良するよう表現法を改変する手続きが不明である。このことは、臓器領域抽出性能を基準に完全にトップダウンで階層表現を改良する手続きが、現状では実現困難であることを意味するため、モデルの階層化にはボトムアップな指標についての議論が不可欠である。そして、今年度の成果はボトムアップな手続きによる下層表現のまとめ上げ方に明瞭な基準を与えうる。 今年度の成果により、臓器上の各位置で、その統計的多様性の表現に適したモデルを選択できるようになった。その選択の基準は汎化性能であり、未知の臓器形状に対する表現能力である。この汎化性能はAICにより与えられた学習データのみからボトムアップに評価することが可能であり、仮に臓器領域抽出処理の性能が臓器形状の表現能力の向上にともない改善されるのであれば、トップダウンな手続きを経ること無く、臓器領域抽出精度を陰に考慮しつつ統計モデル表現を改善できる。このことは、本研究目的の達成に大きく寄与するものである。
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今後の研究の推進方策 |
統計モデルの階層化というモデルに変更はないが、その階層化に重要な課題が統計モデルを構築する際の統計モデル表現や、学習用臓器表面上への対応点生成であることが、本研究を推進する過程で明らかになりつつある。今年度は想定する確率密度分布関数(正規分布など)と学習データとの不整合を、メタパラメータを有する分布族の導入と、AICによりメタパラメータの最適値を選択することで解決することを提案した。
本研究は臓器表面の点群統計モデルの構築法に関するものであり、今年度構築した手法により選択されるモデルは、臓器表面上への対応点生成法に大きく異存して変化する。今後の研究は、この対応点生成法に力点を移す予定である。対応点生成法についての研究は盛んになされており、近年は微分同相写像が注目を集めている。臓器表面間の微分同相写像の算出法は既に複数提案されているが、対象臓器群によっては適切な写像が得られず、解剖学的に不適切な対応点が得られてしまうことが知られている。これは、微分同相写像を計算する際に、図形どうしの差を局所的な比較の総和でのみおこなうことが主な理由である。ここで局所的な比較とは、例えば輝度値や臓器表面の法線や曲率など、画像中の各位置で、その近傍のピクセルのみを利用して計算できる特徴量のみを比較することを意味している。そこで今年度は、微分同相写像を算出する前に、与えられた臓器領域の大局的な特徴を陽に記述する手法を構築し、階層モデルの精度向上の核を担う部分に注力したいと考える。
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