従来は,隠れマルコフモデル(HMM) を用いた音響的特徴の統計モデル(音響モデル)で肺疾患者識別を行った.心音を考慮していない音響モデル(通常モデル)を用いた山本の研究では,心臓周辺の聴診箇所では心音が異常音(副雑音)と誤認識され,識別率が低下することがあった,そこで,これまでの研究では心音モデルの識別結果に,心音の継続時間が短く,副雑音を心音と誤認識している可能性が高い場合にペナルティを付与する手法(条件Ⅰ),心音の継続時間に関係なくペナルティを付与する手法(条件Ⅱ),を用いて識別を行ったが,心音の混入頻度が高い時には有効であったが,少ない時は識別率が低下するという問題があった.そこで,通常モデルと心音モデルの識別結果を使い分けることで,識別率の向上を目指した. まず,すべての肺音データを心音モデルを用いて識別し,その識別結果から心音の含まれる割合(心音検出率)を調べた.心音のⅠ音が出現する可能性の高い区間を推定し,その区間にⅠ音と認識された音が出現していればそれをⅠ音候補とする.次にすべてのⅠ音候補の継続時間を調べる.継続時間がⅠ音の継続時間の範囲外であるものはⅠ音候補から除外した. 心音検出率が閾値以上のデータであれば心音モデルの識別結果を採用する.閾値未満であれば通常モデルで認識を行い,その識別結果を採用した. 評価データには,左肺前面3 箇所の肺音データを用いた.実験の結果は聴診箇所④(左肺上部)は通常モデルと,聴診箇所⑧(左肺下部)は心音モデルと同じ異常肺音検出率,肺疾患者識別率になった.心音の混入が多い聴診箇所⑥(左肺中部)と全聴診箇所平均では,異常肺音検出率が提案手法の条件Ⅰ,Ⅱのどちらとも,肺疾患者識別率は提案手法の条件Ⅰのみが従来手法よりも向上した.この実験により,心音の混入頻度が高い聴診箇所において提案手法が有効であることを示した.
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