本研究課題は,集合論的な画像モデルの構築と,その画像復元・再構成問題への応用を提案することを目的としている.平成28年度の研究成果の一つは,平成27年度に提案した集合演算から得られる画像特徴量を画像先見情報として用いる正則化法を拡張し,画像構造のサイズに着目した画像成分の分離法を提案したこと,および,集合演算に基づく画像のフィルタリング法を拡張することで,性能の高い新しい非線形フィルタの構造を提案したことである.前者では,既存の集合演算に基づく画像の特徴量であるモフォロジカル勾配が,L∞ノルムであることを示し,モフォロジカル勾配から得られる画像先見情報をL1-L∞ノルムとして定義した.この画像先見情報による画像復元では,L∞ノルムの性質から,集合演算に用いる構造要素のサイズによって,保存される画像の微小変動のサイズが決まることを実験から示した.この先見情報を複数用いることで,サイズに基づく画像分解を達成し,それぞれに異なる正則化パラメータを与えることで,従来のTV(Total Variation)正則化よりも高い精度で雑音除去を達成できることを示した. 後者の研究では,既存のモフォロジカルフィルタの最大値と最小値演算に,畳み込み層を加えた新しいフィルタ構造を提案した.これは,モフォロジカルフィルタの構造を反映させた畳み込み型ニューラルネットワークと解釈することができ,畳み込み型ニューラルネットワークよりも少ない階層で,モフォロジカルフィルタよりも高い雑音除去性能を持つフィルタが構成できることを示した.また,この拡張されたモフォロジカルフィルタに対して,確率的勾配降下法により,畳み込み層の係数を学習する方法を検討した.
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