本研究では、ミクロレベルの繊維のHDRマルチバンド画像を撮影し、鏡面反射光の分光反射特性をPLSにより推定し、鏡面反射光の強度の変化に対する光沢色の変化を色度空間において追跡し、安定に光沢色の特徴を解析した。さらに、織物の微小構造に基づく光沢色変化を解析するために、織物の微小構造から観測される鏡 面反射光の色度と微小構造における分布領域との関係の解析を行った。微小構造において観測される光沢は、微小面の法線が織物の法線と一致するよこ糸中心付近ほど強く、その色度座標は光源色とは遠ざかる方向へ変化した。この結果を物体色の鏡面反射の色度変化を微小構造となる単糸の幾何構造および光学特性に基づいて考察した結果、織物のたて糸とよこ糸領域の微小構造の違いによって物体色と光源色の鏡面反射光が観測されること、物体色の鏡面反射光は透過性の高い繊維に入射した表面下散乱光が三角柱状の繊維の側面で内部反射し正反射方向に選択的に出射したためであること等を確認した。 次に、画像による解析では困難な、単繊維の断面形状による織物の光沢の効果を考察するために、三次元光学シミュレーションを構築し、単繊維の断面形状に基づいて、繊維内部における光の伝搬と織物の光沢を解析した。すると、三葉断面の先端の丸みとその間の曲面形状が、繊維内部で光が全反射しやすく、複数本の単繊維が多層に並んだ時は、周辺単繊維への光の伝播が水平および深い層も含めた放射状に広がる光が観測されることが確認された。また、三葉断面形状の単繊維を束ねたよこ糸モデルでは、1 層目の単繊維内での全反射によって、物体色の強い出射光が観測され、表面で生じる光源色の鏡面反射よりも2 倍強く、光源色の影響が少ないことが確認された。単繊維に沿った方向での反射光の強さと色度変化を確認すると、画像解析による結果と同じ傾向を示すことが確認された。
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