本研究では、製品やサービスの利用によって、ユーザが意味のある(意義のある)経験や生活ができるようになるかを評価し確認する手法を開発した。具体的には、UXカーブという手法をベースにして、まずUXグラフという手法を提案した。UXカーブは、UXの水準(具体的には、一般的経験水準、魅力水準、使いやすさ水準、機能性水準、利用頻度)を横軸の時間に対して上下の高さでグラフ表現させる手法である。 これに対して、UXグラフでは、横軸の単位(つまり年)を明確にし、また、どのようなエピソードがどの程度の評価を得たのかをエピソードのテキスト記述と、+10から-10までの評定による程度の評価を得ることにした点に特徴がある。いいかえれば、UXカーブにおける恣意性を、手法の厳格化によって抑えようとしたものである。しかし、UXカーブやUXグラフはグラフを描画するため、視覚的に把握できるという利点がある反面、横軸の時期に関する記憶の曖昧さによってグラフの形が影響されてしまう点に大きな課題があった。 そこで、グラフという視覚化表現をやめ、エピソードのテキスト記述と評価値の記入だけに限定したのがERM(Experience Recollection Method)である。日本語では経験想起法と命名した。なお、時間軸に相当する部分については、入手前、入手した時点、その後、現時点、今後の見通し、という大ぐくりな表現とするにとどめた。記憶に関しては忘却や歪曲という心理学的プロセスの影響が懸念されるが、リアルタイムで経験値を蒐集する方法にくらべれば侵襲性が低く、長期間にわたる調査や広い分野での利用が可能である。 ERMについては国内外で既に80件程度のデータ収集を行い、記入のしやすさ、自己の経験の確認の可能性、などの利点があることがインフォーマントのアンケート結果から明らかとなっている。
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