これまでの研究で,抱擁して使用する人型のぬいぐるみ状の対話メディア「ハグビー」がポジティブな感情変化を引き起こすのに有効であることが確かめられたため,ハグビーをベースに感情変化を引き起こす対話メディアを2種類試作した.一方は布ヒータと圧力センサを内蔵したハグビーである.対話メディアを抱擁すると発熱するため,対話中により暖まろうとユーザーが抱擁を強めることで,ユーザーの感情変化を無自覚的に引き起こすことができる.他方は任意のデバイスへの入力インタフェースとしてのハグビーである.人形状の頭部や臀部等に接触センサを備えており,それらの部位を触ることによりデバイスへの入力を行う.例えば,ユーザーがポジティブかネガティブな返答を要求される質問をされた場合に,ハグビーの頭部を撫でたり触れたりすることでポジティブな返答を,臀部をたたくことでネガティブな返答をするインタフェースとして使用すれば,ユーザーの行為が無自覚的にユーザーの感情を増強することができる. また,このようなメディアをより長期的に使用した場合の効果についての考察も行った.初対面の2名が数週間継続的にメディアを使用して対話を行った際の効果について,手の平サイズの人型スポンジに小型携帯電話を内蔵したメディアと通常の携帯電話を比較した実験では,前者の方がユーザーの自己開示を早く引き出し,より対話相手について知りたくなる気持ちが高まることが,これまでの研究で明らかにされている.このときにユーザーとメディアとの相互作用を記録したビデオを解析したところ,人型メディアを使ったユーザーの中には,メディアの頭部を撫でたり,胴体,腕,脚,頭部を握ったりしながら対話しているものがいることが分かった.これらメディアとの身体的相互作用が上記の効果に影響している可能性が考えられ,対人関係構築を促進する効果をもたらすメディアデザインの可能性が示された.
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