「AはBだ」という形式で表現される比喩の解釈として、文章に含まれる単語に由来しない創造的な解釈が創発する認知メカニズムの解明を目的とした心理実験を実施した。先行研究の知見から、比喩における創造的解釈生成は(1)広範な意味探索 (2)喩えられる語に適応可能な特徴か否かの評価,の2つのメカニズムからなるとの仮説が提案できる.そこで,「AはBだ」形式の比喩理解(比喩理解)と、2つの単語「A」「B」の組み合わせ(概念融合)の比較を通じ、「比喩」という文脈の影響を明らかにした。本年度は2つの概念「A」「B」の組み合わせが表す特徴を口頭で自由に回答してもらう特徴生成課題を用い、特徴生成過程における視線の動きを測定した。刺激は比喩理解に関わる先行研究(Terai et al. 2015)で用いられた「AはBだ」における単語対(A,B:新奇単語対・比喩的単語対・字義通り単語対)を用いた3種類の単語対に共通の単語Aを共通単語,3種類の単語対において異なる単語Bを固有単語とする。その結果,新奇比喩文では創造的解釈生成過程において解釈発話数秒前に有意に喩えられる語を注視しているのに対し,新奇単語対では発話数秒前に有意に固有単語(≒喩える語)を注視していることが示された.喩える語,喩えられる語といった役割のない概念融合においては,単語対の条件(新奇単語対・比喩的単語対・字義通り単語対)間で異なる固有単語をより注視しているが,比喩条件では条件間で異なる喩える語ではなく喩えられる語をより注視していることが示された。すなわち、比喩という文脈により喩えられる語への視覚的注意が促進されることから、評価メカニズムの存在を示唆した。
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