研究課題/領域番号 |
26330258
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研究機関 | 岩手県立大学 |
研究代表者 |
小方 孝 岩手県立大学, ソフトウェア情報学部, 教授 (50293436)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 物語生成 / 統合物語生成システム / 概念辞書 / 言語表記辞書 / 循環制御 / 規範‐逸脱 / 流動‐固定 / 物語論 |
研究実績の概要 |
統合物語生成システムは全体として既に稼働しているシステムであるが,今後Web等を利用した実世界での使用に耐えられるシステムとするためには多くの課題がある.平成26年度においては主に,(1) 統合物語生成システム全体に渡る生成制御の枠組みの考案(基幹コンセプト「循環制御」と関連),(2) プロップ民話理論を書き換えた物語内容(ストーリー)の事象利用・獲得ツール開発,実際の物語コーパスからのモチーフ(基本的に単一事象)及び事象連鎖の自動獲得法に関する実験,(3) 名詞・動詞・形容詞・形容動詞・副詞の各概念辞書の構造再検討及び新規開発,(4) 固有名詞概念辞書についてWikipediaからの自動獲得手法の案出,(5) 概念辞書の個々の項目毎に定義された言語表記辞書の使用確定と開発継続,さらに(6) 二つの応用システムの改定案の策定(基幹コンセプト「流動-固定」と関連),等の具体的作業を行った.特に重視したのは,概念辞書及び言語表記辞書の改訂・拡張・新規開発であり,これは,文生成の質的向上,登場人物や出現事物への詳細情報付与(基幹コンセプト「規範-逸脱」と関連)等,物語生成の本質的部分と直接関連する.さらに,(7) 上記基幹コンセプトの深化については独立した研究を行っている. 申請書中に,「研究の窮極の目標が手法自体ではなくあくまで物語生成システムという一つの全体としてのプログラムの開発と利用にあり,核となる手法も全体としての有機的な動きの中で確認される必要がある.」と書いたが,本研究の遂行はこの原則に基づき,如何なるレベルの新規開発や改訂もすべての全体の中での稼働実験において動作の有効性を検証する,という基本方針を堅持している.これは,一つのパッケージとして応用システムや実世界展開システムになり得る,本システムの意義・重要性の核心である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下1は,(2), (3), (5)はほぼ計画通り(一部計画以上)進んだ.(1), (7)は部分的達成,(6)は未着手である.2は1との関わりで特に文生成の質的向上を見込める状態になった.両者の設計・開発・改訂作業は全体としてほぼ順調に進んでいる. 1.統合物語生成システム:(1) 生成制御:物語生成過程を聴き手の期待への語り手の応答によりモデル化,その関係により物語言説技法選択ルールを制御,物語生成を反復する仕組みをシステム全体に拡張する枠組みを定めた(次年度に継続). (2) 物語内容の構造生成:民話理論導入を継続,自動・手動合せた事象利用・獲得ツールを開発した.実際の物語コーパスからのモチーフ及び事象連鎖の自動獲得法に関する実験も行った.獲得知識は物語コンテンツ知識ベースに格納されるが,格納形式の実験も行った.(次年度に継続).(3) 概念辞書:名詞・動詞・形容詞・形容動詞・副詞の概念辞書の構造再検討と新規開発を行い,固有名詞概念辞書についてはWikipediaからの自動獲得手法を案出,次年度にかけ実装を継続中.(4) 物語言説の構造生成:文学理論による方法の拡張枠組みを考案,実装は次年度を予定.(5) 自然言語表現:概念辞書の項目毎に定義された表記辞書開発の仕様をほぼ確定,次年度中の実装完了を予定.(5) 音楽表現:開発は停止中である.(5) 映像表現:ユーザインタフェースの改訂を行い,生成途中の物語群を種々の詳細化レベルによりユーザが操作可能なツール開発を行ったが,アニメーション生成の精緻化には達しなかった. 2.応用システム:(1) KOSERUBE:中学生向けデモ等により特に文章生成の直近の課題を明らかにした.改訂は次年度予定.(2) 物語の森:学生へのデモ等を行い,第一版からの抜本的な改訂の設計を行った.改訂は次年度予定.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に引き続き,二つの大項目に分けて研究を進める.1の項目は,サブ項目完成時点で,あるいは方式確定時点で,統合システムとの統合実験を随時行いながら進める 1.統合物語生成システム:(1) 生成制御:システム全体に渡る一貫した生成制御方式の考案と実装実験を行う. (2) 物語内容の構造生成:実際の物語コーパスからのモチーフ(基本的に単一事象)及び事象連鎖の自動獲得の実験を継続し,獲得知識の物語コンテンツ知識ベースへの格納を行う.(3) 概念辞書:名詞・動詞・形容詞・形容動詞・副詞の各概念辞書の改訂実装と新規開発をほぼ終了し,また固有名詞概念辞書対象のWikipediaからの知識自動獲得の部分的実装を行う.(4) 物語言説の構造生成:物語言説全体をカバーする技法群の暫定的確定と実験的実装を行う(関連する文学理論のより進んだ調査も併せて行う).(5) 自然言語表現:言語表記辞書開発の完成と文生成の質向上のための実験的実装を行う.(6) 音楽表現:循環制御との関わりでの改訂に着手する.(7) 映像表現:ユーザインタフェースツールの開発継続と,アニメーション生成手法の再検討を行う. 2.応用システム:(1) KOSERUBE:特に文章生成の質的向上を反映,改訂版を開発する.(2) 物語の森:第一版からの抜本的な改訂の設計に基づく改訂版の作成する. 以上の他,申請者の上記を含む全研究の包括的な記述(”Computational and cognitive approaches to narratology”)と,関連する研究フィールドの独自の観点からする文献調査を目的に,日本及び米国の出版社からそれぞれの二冊の共著の種著者としてのプロジェクトを進めており,平成27年度の出版予定となっている.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初申請者の研究室で博士学位を取得予定のポスドク研究員の雇用及び共同研究費用を算定していたが,年度途中(平成26年10月)より他大学のポスドク研究員に雇用されたため,その分の費用に余裕が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は,申請研究を含む研究全体のサーベイ調査を重視するため,主に図書等物品費の購入に充てることを見込んでいる.
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