研究課題/領域番号 |
26330278
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
立野 勝巳 九州工業大学, 生命体工学研究科(研究院), 准教授 (00346868)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 群れ行動 / グラスキャットフィッシュ / 電気受容器 / 非線形応答 |
研究実績の概要 |
H26年度は,グラスキャットフィッシュの群れ行動に関する実験として行動実験(計画A)と電気生理学実験(計画B)に分けて実施した.計画Aでは,グラスキャットフィッシュと仮想魚を相互作用させるインタラクティブ画像刺激システムの作製に取り組んだ.インタラクティブ画像刺激システムのうち,特に水槽内の魚を追跡するプログラムと仮想魚を群れのように動作させるためのボイドアルゴリズムのパラメータ抽出を行った.まず魚の動きを追跡するための実験水槽の作製と,その水槽に合わせて魚の位置を検出するプログラムを作製した.撮影した画像をもとに,水槽を仮想的に三分割し、魚のいるエリアを特定するようにした.より詳細な魚の場所を特定するプログラムも作製した.加えて、水槽底面にいくつかの画像を呈示して,グラスキャットフィッシュの応答を確認した.次に,ボイドアルゴリズムのパラメータとして個体間相互作用距離を抽出した.グラスキャットフィッシュの群れ行動の記録から各魚の位置を抽出し,この位置データに遺伝的アルゴリズムを適用し,ボイドアルゴリズムのパラメータを決定した.決定したパラメータを利用し,グラスキャットフィッシュの群れ行動を再現した. 計画Bでは,微弱な電気刺激に対する電気受容器の神経応答を記録し,その非線形的な振る舞いを明らかにした.刺激パターンとして正弦波電気刺激を与え,それに対する電気受容器の応答を記録し,神経応答の非線形的振舞いを解析した.求心性線維のスパイク発生間隔が正弦波電気刺激に位相に応じて変動することを確認し,スパイク間隔の1次元写像から周期的応答や非周期応答が得られた.非周期的応答が生じる周波数帯が,正弦波電気刺激に対する忌避行動を起こす周波数帯に重なることから神経符号の行動への寄与の示唆される.また,サイエンス用sCMOSカメラを設置し,電気受容器の蛍光染色の準備を整えた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画を行動実験(計画A)と電気生理学実験(計画B)にわけて実施しているが,正弦波刺激に対する非周期的な応答の現れる刺激周波数帯と,正弦波刺激に対して忌避行動を示す周波数帯が重なることを示す知見が得られたことによって,平行している計画の結びつきが出てきたことが計画が順調に進展していると判断した一つの理由である.正弦波周期刺激に対する電気受容器からの求心性神経の応答が非周期的になることがあり,その刺激周波数帯が忌避行動の場合と重なるということは,神経符号と行動との接点の可能性を示唆している. インタラクティブ画像刺激システムの作製においては,システムの完成には至っておらず,H27年度に引き続き計画を遂行する予定である.一方で,実験水槽と実験設備を工夫し,グラスキャットフィッシュの行動をより鮮明に記録できるように改良した.これにより魚の位置を追跡しやすくした点が進展したことである.この実験設備を利用し,動画像画像を呈示すると,それに反応し,グラスキャットフィッシュが避けるような行動が見られた.また,実際の魚と相互作用させるための仮想魚モデル(ボイドアルゴリズム)を作製するために行った実験において,グラスキャットフィッシュの群れ行動から数理モデルのパラメータを抽出できた点も評価した.画像呈示システムと魚の位置追跡プログラムと群れ行動のボイドプログラムが準備できたことで,これらを結合すればインタラクティブ画像刺激システムを完成させることが出来る. 計画Bの一部として,電気受容器,および求心性線維の蛍光染色を予定しているが,染色画像を確認するためのサイエンス用sCMOSカメラの設置が完了した.試験的にカルシウム感受性色素で電気受容器を染色し,複数の電気受容細胞がアンプラ管の中に並んでいる様子を確認した. 上記の理由により,順調に進展したと判断した.
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今後の研究の推進方策 |
H27年度も引き続き,行動実験(計画A)と電気生理学実験(計画B)にわけて実験を遂行する.計画Aでは,水槽内のグラスキャットフィッシュと仮想魚の動画像の相互作用システムを作製する.画像から魚の位置を特定するプログラムと群れ行動のボイドプログラムを結合し,魚の位置によって仮想魚の群れを操作できるようにする.作製した仮想魚の動画像を水槽に投影し,同時に魚の反応行動を調べる.ボイドプログラムの分離,整列,結合の距離範囲を調整することで,接近行動を誘発する刺激画像を調べる.また,接近行動だけではなく,避ける行動を誘発する刺激画像についても調べる. 計画Bにおいては,正弦波電気刺激に対する神経応答をより詳細に調べ,その非線形的特性を明らかにする.正弦波電気刺激に対する神経細胞モデルの非線形応答について先行する知見と対比することで,電気受容器の神経応答の機構を明らかにする.また,正弦波電気刺激以外の刺激パターンに対する神経応答についても調べる.解析には,周波数解析やSTAのようにスパイク電位の発生時刻をトリガーにした外的刺激の解析や非線形解析手法を用いる.この結果得られる神経応答パターンと電気刺激に対する行動について比較することで,両者の関係を調べる.また,電気受容器のカルシウムイメージングにも取り組む.H26年度に設置したsCMOSカメラを利用し,電気刺激時の細胞内カルシウム濃度変化の記録に取り掛かる.蛍光染色による求心性神経線維の神経経路探索の実験を行う.電気受容器付近に蛍光色素を注入し,逆行性染色を行う.染色された神経線維を撮影し,神経走行を追跡する.電気受容器官であるアンプラ管は腹びれなどに並んでいるので,周囲のアンプラ型電気受容器からの求心性神経線維との結合などに注目観察を行う. 上記により得られた成果を学会等で発表する.
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次年度使用額が生じた理由 |
北海道で開催される学会に参加する予定で旅費の予算をたてていたが,本プロジェクトに関連の深いセクションがなくなっていたため,動物行動の研究が発表される別の学会(日本動物物理学会,長崎)への参加に変更したため,飛行機代などの旅費の支出が予定より少なくなった.関連して,その他経費も予定より少なくなった.また,画像処理プログラムの作製に謝金を充てる予定であったが、自身で作製したため支出を抑えることができた。これらの理由から次年度使用額が0より大きくなった.
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度は,計画Aにおいて,インタラクティブ画像刺激システムのために,負荷の高い画像処理が実行できるグラフィックスプロセッシングユニットを搭載した計算機(物品費)を用意する予定である.計画Bにおいては,細胞の染色のために,カルシウム感受性色素など試薬と蛍光フィルタキューブ(物品費)を用意する予定である. H26年度に得られた成果を国際学会,および国内学会で発表する予定にしている.次年度使用額が生じた分とH27年度分として請求した助成金と合わせて,これらに参加するための旅費として使用する予定である. インタラクティブ画像刺激システム作製に当たって,作業効率を高め研究を加速させるために,次年度使用額が生じた分とH27年度分として請求した助成金と合わせて,謝金によるソフトウェア開発を依頼することを予定している.
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