研究課題/領域番号 |
26330288
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
坪 泰宏 立命館大学, 情報理工学部, 准教授 (40384721)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脳・神経 / 神経科学 / 情報工学 / 生体生命情報学 / ソフトコンピューティング |
研究実績の概要 |
課題1では,制約付エントロピー最大化原理を,確率的パルス間隔素子でない一般的な確率的素子に適用できるように拡張する枠組みを構築した.もともとの制約付エントロピー最大化原理では,発火率に反比例するパルス間隔を生成する確率素子を仮定していたが,この原理の適用限界を非ガウス的ノイズチャネルや他のチャネルに対して適用する方法を検討した.より一般的な入出力対応をもった確率素子の場合に拡張し,制約付エントロピー最大化の解となる発火率の定常分布を計算した.また,これまでの原理では,入力パラメータ(発火率)から観測量(スパイク間隔)への変換を考慮していたが,さらに発火率そのものではなく,情報表現として発火率を非線形変換した別の量を用いた場合について,その情報量と制約付エントロピー最大化の解を計算した. 課題2では,多様な確率素子が複数あった場合の情報伝達に関して,制約付エントロピー最大化原理に従うことでのメリットを調べるために,複数の多様な送信側の神経細胞からスパイクを受けとる1つの受信側の神経細胞が制約付エントロピー最大化原理に従うスパイク時系列を生成するための条件について詳細に調べた.その結果,受信側の素子として単純な積分発火型の神経細胞を考えた場合,送信側の複数の神経細胞がかなり限定された条件下にないと,インビボの神経細胞から観測されるエントロピー最大化原理を満たすスパイク時系列が生成されないことがわかった. その他,行動経済学の専門家と,神経細胞の確率的な情報処理と人間レベルでの判断の非合理性や不確実性について,低電力性及びエネルギー消費の観点から議論した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の段階では2つの課題を遂行する予定であった.1つ目は制約付エントロピー最大化原理の一般的な確率素子の場合への拡張であり,この課題については予定通り研究を進めることができた.2つ目は多様な確率素子が複数あった場合の情報伝達効率に関する解析であった.その基礎として,複数の送信側の神経細胞からスパイクを受けとる1つの受信側の神経細胞がインビボで観測されるエントロピー最大化原理に従うスパイク時系列を生成する条件について詳細に調べた.予想に反した結果として,単純な構成ではインビボで観測されるエントロピー最大化原理に従うスパイク時系列を再現できないことがわかった.この成果は,確率的スパイク生成様式に制約を与えるもので,今後,神経細胞の確率的スパイク列による情報処理の解明に関して大きなヒントを与える重要なものであったが,当初の計画である情報伝達効率の計算を行うためには,先にこの問題を解決する必要があり,結果として多数の素子の場合の情報伝達効率そのものは計算できなかった.この点を除けば,上記の副次的な成果を加えて,おおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
まず第1に,本年度得られた知見を論文としてまとめ,公表する予定である. 第2に課題2でわかった,単純な構成ではインビボで観測されるスパイク時系列を再現できない,という点を踏まえて,次年度では引き続き,複数の送信側の神経細胞からスパイクを受けとる1つの受信側の神経細胞がインビボで観測されるエントロピー最大化原理に従うスパイク時系列を生成する条件について詳細に調べる.方法として,神経細胞のモデルとして積分発火型素子から拡張したモデルの使用,送信側の複数の神経細胞が互いに複雑に協調してスパイクを生成している場合の考慮,シナプス結合強度の不均一性の考慮,を検討する. 上記の問題の解決は,本課題の研究目的である,制約付エントロピー最大化原理に従う素子で実際にネットワークを形成し,確率演算素子及びモジュールとして確率分布のまま情報処理機能を果たすことができるかについて追究する,ことに関して本質的であるため,時間を優先的に配分し,課題3は次々年度に行う.
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