研究課題/領域番号 |
26330293
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
梅原 広明 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳機能計測研究室, 研究マネージャー (60358942)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ニューロンモデル / ニューラルマスモデル / 神経集団モデル / 神経細胞モデル / 膜電位 / 平均電位 / ミクロマクロ対応 |
研究実績の概要 |
ニューラルマスモデル(neural mass model) は脳波や脳磁界信号といった大脳皮質の巨視的なダイナミクスを記述する効率的な枠組みである.当初,ニューラルマスモデルは脳波の現象に合わせるために,解剖学的な値よりも比較的長い時定数を持つシナプスダイナミクスに基づき,神経集団の電位を表す変数の時間に関する2階微分方程式として経験的に組まれた.そのため,実際の神経細胞モデルとの関係は必ずしも明確にはなっていなかった.神経細胞モデルのネットワークから膜電位やシナプス電流を平均化してニューラルマスモデルと同様の2階微分方程式を近似的に導き,神経細胞やシナプスのダイナミクスを定めるパラメータとニューラルマスモデルのパラメータとを対応づける先行研究はある (Rodrigues et al. 2010) が,シナプス電流を平均化する際に膜電位が時間に関してほぼ一定で発火の閾値下に留まる,という仮定が含まれていた.これは,神経細胞がまったく発火しない,という非現実的な仮定に相当する.本研究では,シナプス電流が膜電位に依存しない,と仮定することで膜電位が時間変動していても平均操作を行うことができることを示し,実際に,集団を構成する神経細胞で平均化した膜電位の2階微分方程式を導いた.得られたモデルは,無発火の下では先行研究のモデルを包含し,さらに,発火する状況を数値実験した結果,神経細胞ネットワークモデルにおける膜電位の集団平均をさらに時間平均した値と,パワースペクトル密度の相対値を再現した.本研究により,既存のニューラルマスモデルは,集団をなす神経細胞のダイナミクスを平均化したモデルとして妥当であることを更に確固たるものとした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目となる平成27年度は,初年度に神経細胞モデルから導いたニューラルマスモデルの組み方を改良し,集団的な挙動が実際の脳活動をよく再現する神経細胞ネットワークモデル (Mazzoni et al. 2008) からニューラルマスモデルを組み,集団のダイナミクスを精度よく表すことに成功した.この結果を学会発表するとともに,学術誌に投稿した.
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今後の研究の推進方策 |
神経細胞モデルのネットワークにおけるダイナミクスと,ネットワークモデルから導いたニューラルマスモデルのダイナミクスを対応づけたが,定常的な刺激入力に対する応答のみの比較に留まる.また,ネットワークモデルで設定されているシナプス伝達遅延を無視している.過渡応答では伝達遅延の影響が大きく現れると予想する.そこで,伝達遅延も考慮したニューラルマスモデルを組み,過渡応答における対応付けを確立させる.
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次年度使用額が生じた理由 |
マルチコア計算機を導入し大規模計算を行う予定であったが,既存の計算機に性能向上を行う程度の計算結果からまとめることのできる論文の投稿を目指すことを優先しそれを実施したため,計算機の導入を次年度に見送った.
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度交付分と合算し計算機システムを導入する.
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