研究課題
本研究では、刺激還元による本物らしさに対応する感性を迫真性と定義した。刺激強度が弱いほど、種々の感覚間の相互作用が大きくなることは、逆理的効果 (inverse effectiveness) として知られるようになってきた。この効果を利用すれば、実際の事象から情報量を減らし、適切な捨象を行えば、多感覚間の相互作用が強まり、未完の美が作りだされる時にはたらく補完効果や創発効果により、かえって迫真性のある情報伝達が達成される可能性がある。そこで、ハリウッド的コンテンツが重要視する臨場感とは異なって、特に空間が醸し出す感性や日本美の表現・伝達・鑑賞には、迫真性がより重要な要因概念になっていることを論述して、招待解説論文「空間感性の重要性:臨場感と迫真性」として公刊した。また、映画技法では、よく特定のシーンをスローモーションで提示する手法が良く使われるが、適度のスローモンション化が迫真性を高めることを示す実証データをまとめて論文化した。さらに、それらの感性の創出基盤となっている多感覚相互作用による時間知覚の変容や、事象知覚の変容を心理実験や脳波実験により確かめ、論文化や学会発表も複数行った。
2: おおむね順調に進展している
迫真性の概念と空間美・日本美の関連性を整理・考察し、招待解説論文にまとめたところ、好評を得ることができた。スローモーションが迫真性の増強におよぼす効果についても、結果をまとめ、論文化することができた。迫真性のベースとなる多感覚相互作用に関する心理物理実験や、一部ではるが脳波実験も行うことができ、国内外の査読付き学術誌に論文が公刊されたり、複数の学会発表を行うことができた。
スローモーションが迫真性におよぼす効果、還元された単純な刺激でも素早い感情喚起処理ルートにより刺激検出に及ぼす影響、多感覚情報処理が時間知覚や事象知覚に及ぼす影響を心理実験や、一部は脳波実験でとらえることができた。今後は、得られた知見を統合し、マルチメディアコンテンツなどにおける迫真性効果創出に関して、感性エッセンス抽出法やノウハウを設計指針として提供する試みを行う。
3D映像変換器を購入したが、この物品が予想以上に廉価(4900円)であったため、10642円を次年度に使用することとなった。
その金額は、比較的少額であるので、心理実験関連の消耗品購入などに使用したい。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち謝辞記載あり 4件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) 備考 (2件)
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