研究課題/領域番号 |
26330307
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
野本 弘平 山形大学, 大学院理工学研究科, 教授 (60456267)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 空間認知 / セレンディピティ / 街 / 魅力 / 価値発見 / 視線 / テキストマイニング / 概念 |
研究実績の概要 |
人が移動中に思いがけない発見をするときのメカニズムを明らかにし、その能力(空間認知におけるセレンディピティ)が高い人の法則性を明らかにする本研究の3年目である当該年度は、頭部にウェアラブルカメラを装着した実験協力者に散策させ、その間に興味を持った対象を撮影させ、さらに散策後各撮影対象に興味を持った理由を記述させる実験を行った。 そして、実験協力者の視野中心の位置を、道の景色における消失点を原点とし水平軸と垂直軸で表現した座標系において検出し、その分布を明らかにした。そしてさらに同座標系における視線中心の移動についても同様に分布を明らかにした。一方、撮影した写真(発見した価値)を第三者の投票により定量化した。これら双方の関係を重回帰分析により解析した結果、価値発見能力の高い人は、低めの位置を見ており、垂直方向に視線を動かす傾向が相対的に高いことが分かった。 また、撮影対象に興味を持った理由についての文章を形態素解析し、用いられている言葉を統計的に処理して、グラフ理論に基づいて言葉の群の構造解析を行った。その結果、街の住人と来訪者それぞれに、街のイメージに関する概念と実際の街での体験に関する概念があり、両概念をつなぐキーワードが存在することが分かった。 これらの知見に基づき、価値発見における概念構造とその変化、および価値発見を可能とするとともに価値発見により誘発される視行動の両面から、空間認知におけるセレンディピティ全体の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人が移動中に思いがけない発見をするときのメカニズムを、価値発見における概念構造とその変化、および価値発見を可能とするとともに価値発見により誘発される視行動の両面から捉えることが出来た。この内面的な概念と外面に現れる行動とは、互いに互いを誘発するサイクルを形成し、無意識のうちに価値発見を実現している。 また、それぞれの研究の方法も、この研究の中で考え出したものである。すなわち、概念構造とその変化については、実験協力者の文章を形態素解析し、それぞれの言葉を統計的に処理して、グラフ理論に基づき言葉の群の構造を解析するという方法を取った。一方、視行動については、頭部に装着したウェアラブルカメラの映像から、道の景色における消失点を原点とした座標系における実験協力者の視野中心の位置とその遷移をデータ化し、その分布のパタンを求め、さらにそのパタンから特徴量を抽出して多変量解析を行うという方法を考案した。 双方とも、人間の無意識の概念と行動を実験データとして外在化し、客観的かつ定量的な手法により扱う方法である。 以上のことにより、進捗状況はおおむね順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の実験では視行動の計測には、頭部に装着したウェアラブルカメラを使用した。ピンポイントで視点を特定出来る視線計測装置を用いなかった理由は、視線計測装置で正常に視線計測ができる条件(眼鏡、まつ毛、目の形状など)が厳しいために実験協力者が限定されること、計測が可能な場合でも、外光下における光学的条件の変化や振動による装着状態の変化などにより実験中にしばしば計測不可能に陥ること、および視線計測装置が頭部でずれないようにするための拘束による身体的負荷が小さくはないことによる。これに対し、ウェブカメラによる視行動の計測では、被験者の選定においても、正常データの継続計測においても、さらに被験者の身体的負荷においても、特に大きな問題はない。 当該年度は、このウェアラブルカメラによる実験データを用いて、所期の研究成果を達成することが出来た。しかし、その研究の中で新たに分かったことは、もしウェアラブルカメラでとらえた視野内での視点の分布が分かれば、さらに進んだ研究成果をあげられることである。一方、最近眼鏡型の視線計測装置が発売され、実験協力者の身体的負荷が解消されている。さらにこの視線計測装置では継続計測や被験者選定の上でも改善が進んでいることが分かった。 これらのことを考慮した結果、研究期間延長を行い、この視線計測装置を取得し、視野内の視点の分布を明らかにして、価値発見能力における視行動のメカニズムについて、さらなる研究成果を上げることとした。
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次年度使用額が生じた理由 |
上述のように研究期間延長を行い、視野内の視点の分布を明らかにして、価値発見能力における視行動のメカニズムについてさらなる研究成果を上げることとした。そのためには、前記の眼鏡型の視線計測装置を取得すること、およびこれを用いた実験を実施することが必要である。このために、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
想定している眼鏡型の視線計測装置で条件に合うものを、2,070,000円で購入する。付属の解析ソフトウェア等は購入せず、データ解析は自作のシステムで行う。ウェブカメラは、既存のものを使用する。その他、消耗品等に30,000円、実験協力者を用いた実験の実施費用として150,000円、そして研究成果発表に50,000円を計画している。
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