人が街中を移動するときに感性価値の高い対象(街の魅力)を発見するメカニズムを明らかにする本研究において,移動者の視覚的注意配分を静的および動的に解析することは重要性が高かった. 当初は外光条件下において視線計測装置を安定的に運用することが困難であったため,この解析のための実験では,ウェアラブルカメラによる視野計測を行った.このため,見ている所を点で検出することは出来ず,検出できるのは見ている方向のみであり,このことによる解析の限界が存在した.しかしその後,外光条件下においても比較的安定な計測が可能な視線計測装置の存在を知ったので,期間延長によりこの視線計測装置を実験に用いて,当該年度の研究を行った. 本研究における実験では,実験協力者が視線計測装置を装着して,街中の観光地を歩行した.そしてその後,印象に残った対象について報告を行った.視線の解析においては,頭部固定動座標系で記述される視線データを,風景の消失点を原点とする静止座標系に変換する方式を考案し,この静止座標系における視線分布と注視時間分布を算出した. 解析の結果,観光地歩行時の視覚的注意配分には2つの型があることが分かった.1つは正面集中型であり,その人たちは進行方向の遠方に視覚的注意を集中させていた.もう1つは周囲探索型であり,この型に属する人たちは自分を囲む空間全体に視覚的注意を分散させていた.平均注視時間は,方位角方向の視線分布や仰角方向の視線分布とは負の相関を持つことも明らかになった.
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