本研究は,触感の快・不快情動を引き起こす物理量の閾値や極大値などの定量的な条件を明らかにし,快・不快を引き起こす物理現象を定式化・定量化することで,「心地よさ」をもたらす材料を設計することを目的とした。最終年度となる今年度は,統計学的手法をもとに快・不快を決定づける物理的特徴を俯瞰し,触対象による快・不快の特徴を明らかにすることで,さまざまな触対象に適用できる快・不快の解釈を行った。 対象を触ったときの官能評価のデータをもとに,まず快・不快あるいは嗜好と相関をもつ因子を抽出した。この時,昨年度の検討結果から,触対象として剛体,弾性体,粉体,塑性体に対して,粘性体,流体,粉体の触感の特徴が大きく異なることが示されていることから,皮膚に塗布された流体,および弾性体である皮膚そのものを対象とした快・不快と各官能評価項目との相関を検討した。 その結果,基板に塗布された流体の場合は,快・不快および嗜好が「べたつき」,「違和感」,「ぎとぎと」,「ねとねと」,「ぬるぬる」など,明らかに不快を示す官能評価項目と負の高い相関を示したことに対し,弾性体を対象にした同様の実験では,「なめらかさ」,「はり」,「なじみのよさ」,「マット感」など,明らかに快を示す官能評価項目と正の相関を持っている特徴が見られた。この特徴から,触対象が流体などの不定形体であるか,固体状の成形体であるかによって快・不快の感じ方が大きく異なることが示された。具体的には,塗布された流体の触感の快適性は,不快因子が取り除かれることに対応しており,一方で弾性体の触感の快適性に関しては不快因子の寄与が小さく,快因子が大きく寄与していることが分かった。また物理的条件としては,流体の不快因子には接触角や粘性率が相関していることが分かったが,一方で弾性体の快因子に関しては,単純な比例関係ではなく極大値を持つ特性を持つことが推測された。
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