研究実績の概要 |
自動車運転者の視線運動はその運転技能によって異なり、一般に初心者ドライバーでは近方を、熟練ドライバーではより遠方を見る傾向があることが知られている(Mourant and Rockwell, 1972)。一方、運転技能が異なれば操作される車両の挙動も異なったものとなり、結果として、運転者の眼前に生成・提示され、また、運転者によって知覚されることとなる外界の景色の流動(「光学的流動」)も、運転者の技能に応じて異なったものとなると予想される。本研究では、運転者の視線運動が、(1)運転者の運転技能が車両挙動に与える影響、および、(2)車両挙動が光学的流動に与える影響、の相互作用の下にあるとの仮説に立ち、「車両挙動-生成される光学的流動-視線運動」の三者間の関係について明らかにすることを目的とした。 これらの目的を達成するため、本研究では、(1)運転技量によって異なる車両挙動の違いを実車走行データとして取得する段階、(2)前段階で取得した実車走行データを元にして、走行時に生じる「光学的流動」を計算機上に再構成した映像(ドットピクチャによって抽象的に表現された光学的流動)を作成する段階、(3)その映像を大学生の実験参加者に提示し、視線がどのように誘導されるのかをアイカメラにて計測・評価する段階という3つの段階を経た研究を実施することを計画した。 検討の結果、熟練ドライバーの実走行にもとづくフロー画像と、一般ドライバーの実走行にもとづくフロー画像を、それぞれディスプレイ上で実験参加者に提示したところ、熟練ドライバーのフロー画像に対して、実験参加者の視線がより遠方に誘導される傾向が示唆された。今後は、フローのうちのいかなる成分が視線の誘導に特に寄与したかについて、さらなる検討を行いたい。
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