質感は工業製品の外観を構成する形状,色彩と並ぶデザイン要素の一つであり,様々な仕上げ法を用いることにより多種多様な質感を設計することが出来る.しかし,質感を設計する際,デザイナーと技術者間で使用される共通の設計指標がないため,デザイナーが意図した質感を具現化することは容易ではない.すなわち,質感の設計指標となり得る物理指標を明確にする必要がある. そこで本研究では,質感を構成する要素のうち「粗さ」に着目し,ISO規格に基づく3D表面性状パラメータを粗さの物理指標として,質感の設計指針を確立するための実験的検討を行った.初年度は,パターンの異なる12種類のシボサンプルについて,各々パターンにおけるシボ深さが段階的に3種類に変化した合計36種類のサンプルを対象として,3D表面性状パラメータ35種類と光沢度との関係から,凹凸形状を特徴づけるために有効な物理指標を明らかにした.次年度は,パターンは異なるが3D表面性状パラメータの値が近い2種類のパターンを対象として,粗さの感覚量と3D表面性状パラメータとの相関関係について検討するため,まずは触覚による粗さ感の評価を行った.その結果,異なるシボパターンに共通する3D表面性状パラメータが判明した. 最終年度では,粗さ感について触覚だけでなく視覚を用いた場合についても調査し,感覚器官が異なる場合の粗さ感の評価指標について比較検討した.その結果,相関が高く,かつ触覚と視覚の感覚器官による粗さ感評価に共通する3D表面性状パラメータが明らかになった.これは粗さ感を設計する際の有効な物理指標になると考えられる.一方で,視覚による評価と触覚による評価の比較から,各々の粗さ感評価において,相関の高い3D表面性状パラメータがあることも判明した.これは,質感の用途によって優位に働く凹凸形状があることを示唆する重要な結果と考えられる.
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