研究課題/領域番号 |
26330323
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
横井 功 生理学研究所, 生体情報研究系, 助教 (50592747)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 視覚 / 素材 / カテゴリー / テクスチャー / 側頭葉 |
研究実績の概要 |
素材カテゴリーの神経表現を明らかにするために、多感覚的経験を与える前のサルの下側頭皮質(IT野)から単一細胞外電位記録法を用いてニューロン活動を記録した。注視課題遂行中のサルにさまざまな素材画像刺激を呈示しニューロンの反応をテストした。素材画像刺激は9つの素材カテゴリー(金属、ガラス、セラミック、石材、木目、樹皮、皮革、布、毛)からなる実物の素材刺激セットを撮影することによって作成した。IT野から107個のニューロン活動を記録した。大部分の細胞が素材画像について選択的な反応を示し、このうちの約30%の細胞が同じ素材カテゴリーに含まれる複数の刺激に対して強い反応を示した。しかしながらこれらの細胞の選択的反応は、一種類の素材カテゴリーのみを表現するような鋭い選択性ではなく、数種類の素材カテゴリーに対する幅の広い選択性だった。一方、刺激セットに含まれる数個の刺激のみに強い反応を示す細胞も少数見つかった。さらに、ニューロンの反応強度と素材画像刺激に含まれる画像特徴量(色、輝度、空間周波数など)との関係を明らかにするために、実験に用いた素材画像刺激の画像特徴量を計算し、解析を行った。大部分のニューロンの反応は単一の画像特徴量だけではほとんど説明することはできず、IT野のニューロンは複数の画像特徴が絡み合った高次の画像特徴を持つ素材画像に選択的に反応することが示唆された。これらの結果から、IT野のニューロンは知覚的な素材識別と素材カテゴリー弁別の基盤となる神経表現に関与していることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多感覚的経験を与える前のサルの下側頭皮質から素材画像刺激に対する反応を記録し、多くのニューロンが素材カテゴリーについて選択的な反応を示すことが明らかになった。このことから知覚的な素材カテゴリー弁別の基盤となる神経表現が下側頭皮質に存在する可能性が示唆された。 多感覚的経験を与えるための実物把持課題を行う実験システムを準備することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に多感覚的経験前の生理実験を行ったサルについては、実物素材把持課題を行わせ多感覚的経験を与える。その後、再度生理実験を行い、多感覚的経験後での素材カテゴリーの神経表現を明らかにするとともに、多感覚的経験が素材カテゴリーの神経表現に与える影響を明らかにする。 多感覚的経験前の生理実験を別の1頭のサルで行う。生理実験完了後、実物素材把持課題を行わせ多感覚的経験を与える。 これまでに行った解析の結果は、低次画像特徴量(色、輝度など)ではIT野ニューロンの選択的反応を説明できないことを示唆しているが、このことを実験的に確認するために素材画像に変調を加えたコントロール刺激を用いて生理実験を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は2頭のサルで生理実験を行う予定であったが、生理実験直前に1頭のサルが突然死した。1頭のサルでしか生理実験を行えなかったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
生理実験を行うための金属電極と試薬類、行動実験を行うための実物素材の購入、サル用医薬品などの消耗品の購入、実験用サルの飼育費用として使用する。 研究成果を発表するために参加する学会への出張旅費として使用する。
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