実物の素材についての視触覚経験が行動反応に与える影響を調べるために、実物体把持課題を遂行中のサルに様々な素材カテゴリーからなる実物素材刺激を呈示した。把持課題では9種類の素材カテゴリー(金属、ガラス、陶器、石材、木目、樹皮、皮革、布、毛)によって構成される実物素材刺激セット(合計36個:9カテゴリー×各4サンプル)から刺激が呈示され、サルは呈示された実物体を把持することで報酬を得る。この行動課題を長期間(約2ヶ月間)繰り返し行わせ、記録されたサルの行動反応について詳細な解析を行った。課題成功率は、実験開始直後には約1/3の実物刺激に対して低い成功率(50%以下)を示したが、実物素材を繰り返し呈示することによって上昇した。さらに、個々の実物体間の関係性を調べるためにサルが実物体を引っ張る力についてクラスター解析を行った。実験開始直後よりも後半のセッションにおいて、同じ素材カテゴリーに属する複数のサンプルが同じクラスターに含まれる傾向が見られた。これらの結果は長期間の視触覚経験によって様々な素材の実物体に対するサルの行動反応が変化したことを示唆する。 素材カテゴリーの神経表現を明らかにするために、注視課題遂行中のサルに様々な素材の画像を呈示し、単一細胞外記録法を用いてサルの下側頭皮質から視覚応答を記録した。行動実験で用いた実物素材刺激を写真撮影した画像を視覚刺激として用いた。大部分の細胞が素材画像について選択的な反応を示した。素材についての選択性はこれまでに記録したもう1頭のサルとよく似た傾向を示し、約25%の細胞が同じ素材カテゴリーに属する複数の刺激に対して強い反応を示した。これらの結果は素材カテゴリー知覚の基盤となる神経表現が下側頭皮質に存在していることを示唆する。
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