研究課題
酵母細胞における解糖系振動反応の同期現象の密度依存性を調べることを目的として,酵母細胞をアルギン酸マイクロカプセル内に包含した。細胞の解糖系振動反応をこの様なマイクロカプセル内で行った研究は国内外にない。単一細胞の解糖系振動反応と細胞集団の同期現象を同時に調べた。細胞密度が増大すると個々の細胞の振幅は増大し周期は短くなり,集団的な同期が高くなった。同期現象を定量化する蔵元のオーダーパラメータを計算したところ,細胞密度が高い条件では,ほぼ1に近く,極めて高い同期を示した。さらに,マイクロカプセル内を半分に分ける実験手法を用い,一方の側に低い細胞密度の酵母細胞,もう一方の側に高い密度の酵母細胞を封入して,密度の異なる細胞集団の同期や引き込み現象について,研究した。その結果,細胞密度が低い細胞集団の振動状態は,細胞密度が高い細胞集団の振動状態に,位相同期することが明らかとなった。以上の結果は,酵母細胞の解糖反応において産生される情報伝達物質であるアセトアルデヒドの細胞外濃度が細胞密度が高いほど高くなり,細胞間情報伝達が起こりやすくなったためと考えられる。この様な実験系は,細胞間情報伝達による細胞間同期現象の細胞密度依存性や空間的な細胞配置依存性を調べる上で,極めて有用である。今後,単一細胞が解糖系において振動反応を起こすことの生物学的な意義と,細胞集団が解糖系振動反応において同期することの生物学的な意義について,この様な実験系を用いて研究を継続する。
2: おおむね順調に進展している
酵母細胞における解糖系振動反応において,細胞密度や細胞の空間配置を制御して,単一細胞の振動状態と細胞集団の振動状態を同時に観測できる実験系を確立した。また,細胞集団の同期状態を定量的に解析する手法についても確立した。以上のように,本研究課題である,単一細胞における振動現象と細胞集団における同期現象の生物学的な意義を研究するための,実験手法と解析手法を整えたため,今後,条件を変えて実験と解析を進めることができる。また,数理モデルによる解析も併せて進めている。
現在までに確立した実験手法と解析手法を用い,単一の酵母細胞における解糖系振動反応と細胞集団における同期現象を引き続き実験的に調べる。具体的には,グルコース濃度依存性を調べることで解糖系振動反応と同期現象が,栄養源獲得の容易性とどのような関係があるかを明らかにする。さらに,情報伝達物質と言われているアセトアルデヒドやATP(アデノシン三りん酸)等が,細胞間の同期現象にどのような影響を及ぼすかを明らかにする。数理モデルによる解析を併せて進めることで,栄養源であるグルコース濃度や細胞間の情報伝達の程度が,振動反応や同期現象によるエネルギーの獲得効率にどのような影響を及ぼすかを調べ,酵母細胞における解糖系振動反応と同期現象の生物学的な意義を提示する。
当初予定していた出張等がなかったため。
旅費として使用予定
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
Chaos
巻: 25 ページ: 0646061-0646067
10.1063/1.4921692.
信学技報
巻: 115 ページ: 15-16