研究課題
遺伝性疾患の原因として新たに同定されたアミノ酸置変異について、分子動力学計算(MD)を用いて分子構造に与える影響をシミュレートし、分子機能に与える影響の予測を試みた。具体的には、野生型および変異型タンパク質について、新たに導入したワークステーションを用いて、GROMACSおよびOPLS-(AAL)/L力場による30 nsecのMDシミュレーションを行った。その結果、新規に同定されたアミノ酸変異が、分子構造上、変異部位とは離れた領域の分子の揺らぎを増大させることが予想された。揺らぎの増大が認められた分子領域は、他の分子との相互作用領域を含んでいた。このことから、新規に同定されたアミノ酸変異は、遠隔からその分子間相互作用を弱めている可能性が示唆された。そこで、共同研究により、小麦胚芽を用いたタンパク質合成系を用いて、野生型、変異型タンパク質および相互作用するタンパク質分子を合成し、プルダウンアッセイにより相互作用を調べたところ、変異型タンパク質において相互作用タンパク質との結合活性が低下していた(投稿中)。今回見出されたアミノ酸置換変異が遠隔の分子領域の構造に与える影響は、単にアミノ酸変異を結晶構造上にプロットしただけでは見出すことは極めて難しいものであり、MD解析を行ってはじめて同定することが可能であった。MDによって予測されたアミノ酸変異の影響は、機能実験によっても実証されたため、疾患を引き起こす変異の分子構造への影響を調べる手段として、MDの有用性が示されたといえる。
2: おおむね順調に進展している
本研究の最大の目的は、疾患発症性のアミノ酸変異によるタンパク質機能への影響を、MDによって評価するシステムを構築し、そしてその有用性について、実験的に検証することである。本年度までに、変異型タンパク質のMDを施行するためのコンピューター環境と構造モデルの構築手法の整備が完了し、さらに、MDによる予測をウェットな実験によって検証することができた。この成果はすでに投稿中であり、概ね順調な進展と評価した。
現在までのところ、想定を超える新規変異の解析依頼があるため、分子モデリングや、MDによる変異のシミュレーション解析にスピードが求められている。疾患関連アミノ酸変異の同定は世界的に競争が激しいため、変異による影響を実験的に検証することに時間を掛けることは難しく、当初予定していたNMR実験を検証に用いることは時間的に無理があることが分かった。そこで、分子モデリングやMD などを実験的に検証する方法として、タンパク質間相互作用や酵素活性などへの変異による影響の解析など、NMRよりも解析スピードのより早い実験手法を併用していく予定である。
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