研究課題/領域番号 |
26330356
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
倉橋 節也 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 准教授 (40431663)
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研究分担者 |
津田 和彦 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 教授 (50302378)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 電力市場 / エネルギー転換 / ゲーミング / エージェントベースモデル / 両面性市場 |
研究実績の概要 |
本年度は,以下のような研究目的を設定し,電力市場モデルを構築した. 1)電力市場の中で、どのプレイヤーが,どのような条件で市場支配力を得るのか,発電事業者はどのようなインセンティブで意思決定をするのか,アグリゲータは市場の有力なプレイヤーになりえるのか,両面性市場は成立するか. 2)電力自由化によって、適切なエネルギー転換は実現するのか,多様なエネルギー源を活用しながら,エネルギー転換に向かって安定的な電力需給を達成するメカニズムデザインはどのようなものか,インバランス精算は重要な役割を演じえるのか. 3)ゲーミングを通してプレイヤーの意思決定構をモデル化できるか,妥当性のあるエージェントモデルを構築することができるか,エージェントベースシミュレーションとエージェントベースゲームでどのような相違点があるか,を明らかにする. これらを目的とするモデルを構築し実験を行った結果,多くのプレイヤーは,原子力と再生エネルギーに投資を拡大し,炭酸ガス排出量が多い火力発電への投資を減少させた.しかし,他者の意思決定に対する可視化レベルの設定が,自らの意思決定に影響をあたえること,個人の信念に依存する傾向が見られることなどが,観察された.これらの実験結果から,複雑適応系に対応した意思決定分析が行えることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
欧州の電力市場についての現地調査に基づき,電力市場の課題を抽出しモデル化することができた.エージェントベースゲーミングのフレームワークを新たに構築し,実際の参加者が発電事業者とアグリゲータを演じることで,電力市場自由化のもとでの意思決定プロセスの分析を実施できるところまで進むことができた.また,インバランス調整インセンティブの設計を実施し,多様なエネルギー源における電力設備投資のモデル開発は予定通り進行しており,基本的な実験結果も得られた.需要家のモデルについても,社会ネットワーク研究を基礎とした情報効果と規範効果を取り入れたダイナミズムを実装することに成功し,研究計画の主要な要素はモデル化することができた.以上のように,ほぼ当初の計画通りに進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
H28年度は,構築した電力市場モデルを拡張し,自動エージェントによる意思決定とヒューマンエージェントによる意思決定の同時実行モデルを開発する.実際の気象データに基づくシミュレーションも実行し,多主体の競争的なマーケットプラットフォームにおいて,どのようなインセンティブがエネルギー転換にインパクトを与えるのかの検証を実施する予定である. シミュレーション規模の拡大についても,今後数千から数万へ拡大させ,エージェント数を増加させることによる影響も分析する予定である.多目的最適化モデルについては,人間の意思決定モデルを自動エージェントの意思決定に組み込むことで対応する予定であり,数理的な最適化モデルを実装することは行わないこととする.なぜなら,実際の投資意思決定は人間であり,それと同等の意思決定モデルを構築することが重要であると判断したためである.これは,27年度に共同研究を進めたフローニンゲン大学(オランダ)との議論の結果であり,電力自由化が先行している欧州の事例から,人間の認知・意思決定バイアスをモデルに組み込むことの重要性を取り入れたことによる. 一方,自動エージェントの意思決定は,強化学習モデルを組み込むことを予定しており,これは多主体最適化モデルとなるため,当初の研究計画の発展的改訂となる.これらをベースに,実験を繰り返し,研究成果のとりまとめおよび国際会議での報告を実施する予定である.
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