研究課題/領域番号 |
26330360
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研究機関 | 釧路公立大学 |
研究代表者 |
皆月 昭則 釧路公立大学, 経済学部, 教授 (90363712)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | スマートフォン / 看護過程 / 医療情報 / 周産期 / マタニティ / 地域 / 主観的データ / 客観的データ |
研究実績の概要 |
お産時期になると,マタニティは腹部緊満や陣痛かも知れないというハリや痛みに敏感になり不安を覚えます.発生するハリや痛みの訴えは,本人の訴えでありナラティブ(語り)情報で主観的なものですが,病院前のデータとして医療者など他者に共有するには,できる限り客観的なものではなくてはなりません.マタニティが訴えるハリや痛みの回数と時間(間欠時間)の記録(値)は,主観を客観的に伝えるという重要な情報です.しかし,お産期間の不安や産みの苦しみの最中に,時計の針を目視しながら紙とペンによる記録作業はマタニティにとって容易ではありません.情報を客観的データとして利用するには,回数と時間を正確に記録することが必要です.客観的データ記録は,マタニティのみならず医療者への連絡(看護過程と情報の取扱い)時も有用な情報になります. 陣痛は深夜の自宅あるいは外出先など,場所や時間帯を問わず発生することを想定しておかなければなりません.そこで近年のスマートフォン普及を背景にすると,自宅のみならず外出時でも,ハリや痛みを記録して,それらを客観的データとして集約して医療者に伝えるアプリケーション開発が必要です.開発したアプリケーションは,ハリや痛みの回数と発生時点・終了時点をスマートフォンのボタン操作で記録することができます.アプリケーションの基本機能は,スマートフォンで記録保存し病院連絡の意思決定を支援する「測る・連絡する」です.全国的に分娩を取り扱う産科医療機関が減少している現状は,産科医療の「へき地」化です.また,へき地ではない都市部においても,女性や妊婦が安心して子どもを産む支援策のひとつとして,2種のアプリケーション「陣痛ダイアリ-」と「陣痛ウォッチ」をインターネット公開(サイト名:KODOプロジェクト)において配付しています.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2種のアプリケーション「陣痛ダイアリ-」と「陣痛ウォッチ」の共通機能を開発した.共通機能は,マタニティが訴えるハリや痛み時点において「陣痛発生時点と間欠時間の記録保存」,「電話連絡機能」,「スマートフォンと外部PCへの記録データ移行機能」の4つである. アプリの異なる機能として「陣痛ダイアリ-」では,「間欠時間によるコメントと注意点」と「お産に関するナレッジ」が表示できる.「間欠時間によるコメントと注意点」では,20分以内,30分以内,30分以上の間隔ごとに,コメントは各時間間隔における留意点,異常を感じた場合の早期医療機関の受診を促進するように表示される. 「お産に関するナレッジ」では母子手帳に準拠したチュートリアル的構成でお産に関する一般的な知識が得られるようにした. アプリの異なる機能として「陣痛ウォッチ」では,マタニティのハリや痛みの強さの訴えを3レベルで入力記録できる.過去の記録データ「陣痛発生時点と間欠時間・強さ」は一覧だけでなく,異なる時間粒度でダイジェスト閲覧することが可能である. アプリは検証しながら改良し普及させるためにプロジェクトを設定した.「KODOプロジェクト」は地域・社会環境においてソーシャルサポートとして「へき地」のマタニティ支援をするものでダウンロードが増えている.陣痛発生時の計測・手記記録はマタニティの身体的負担は知られているが,検証ではアプリによって解消したのかを調査した.マタニティの従来の負担を軽減することを目標に設計したインタ-フェスがその水準に達しているのかを調査した.また,陣痛時点と間欠時間をもとにした判断コメントが,医療安全上でマタニティの意思決定に影響や問題を与えていないのか,医療者や保健師とアンケート結果検討している.
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今後の研究の推進方策 |
アプリケーション機能の直接的な評価については,主に北海道の産科医療機関が消滅した地域のマタニティや行政関係者に配付して,使用感などアンケート調査を実施している.安心して子どもを産むための支援の一つとして,行政や地域の人々からアプリケーションの開発意義と重要性を評価されている.へき地等において周産期医療の確保は,安心して子どもを産み,健やかに育てる環境づくりのための主要な要素の一つであるが,評価対象地域の釧路・根室の広大な圏域では,出産可能な医療機関が1/4に減少した.釧路市から離れた他の根室や標茶町など圏域を訪問すると,行政機関の関係者からは,計画分娩で出産するしかないという声を聞く.圏域内のマタニティは「へき地」不安を抱えている.広大な面積に少ない人口が居住する地域は全国各地に存在し,分娩を取り扱う産科医療機関が減少している地方の現状において,研究では,新たにどのような支援ができるのかを検討していく. アプリの機能の発展・拡張としては,お産に関する計測・記録に加えてナレッジモジュールの拡充や計測・記録データを他者に共有可能する新機能の実装が必要であり,試行版を配付している.新機能は,マタニティや男性パートナーに対応したジェンダー意識の変容を期待しており,検証確認する. 少子化問題を解決するには子どもを産むという女性の決断が必要であるが,交通条件や社会条件などがめぐまれない「へき地」の不安解消とマタニティに共感・同感・協力する周囲の思いやりや男女の役割意識の変容が必要であるという仮説を立てた.今後,新機能を実装したアプリをインターネットサイトに公開配付して,「つながり」「思いやり」によってジェンダー意識が変容することを明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費が安くなった.
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次年度使用額の使用計画 |
旅費に使用する.
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