技術融合型の研究開発の特性を明らかにすることを目的に,(1) 「技術融合型」について定義して,特許や論文の特徴を観察するための観点,および,その操作的定義・指標を具体化し,そして,(2) それらの指標を用いた定量的な技術動向調査手法を提案した前年度までの研究成果を踏まえ,最終年度である平成28年度は,自動車関連技術など,いくつかの分野に提案手法を実際に適用して,分野ごとの特性を分析した。 国立情報学研究所のNTCIRテストコレクションと特許公開公報DVD-ROM版を情報源として,特許出願の全文データを分析に用いた。例えば,自動車関連技術に関しては,自動車本体を製造している企業と,主に付属パーツを製造している企業は,技術融合ネットワークの構造的特徴が大きく異なることが明らかになった。カーオーディオやナビゲーションシステムのメーカでは,音響,画像,通信に関する技術を自動車に適用する役割(技術の一方向的応用)が技術融合に求められる。一方,自動車本体のメーカでは,自動車に関する複数の異なる技術を集約することで製品化する役割(技術の統合)が求められる。この違いが技術融合ネットワークの構造に表れたと推測できる。 さらに,分析結果の一般化可能性についても検討した。本研究で提案した指標が基礎を置く,文献の被引用数・キーワードの出現頻度などのデータは,低頻度のソースが大部分を占める性質から,指標の標本量依存性が問題になり,分析結果の解釈において注意を払う必要がある。特に,特許は,被引用数0が非常に多く,学術論文よりもさらに偏った分布をとる。そこで,無作為部分標本抽出のモンテカルロ実験,および補間・補外の理論に基づいて指標の値の変化を推測し,結果の一般化が可能な範囲と限界を確認する方法を構築した。
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