今年度は,1)学術情報流通におけOA運動の位置づけおよび2)OA環境下における新しい論文評価指標であるAltmetricsの位置づけの検討を行った。1)に関しては,OA運動は,学術雑誌の価格高騰,学術情報の電子化,研究者のイニシアティブという3つの異なる文脈が同時代的に組み合わさった結果生じたものだが,約20年を経て,政府や出版社にその主導権が移りつつあり,機関リポジトリの役割は相対的に小さくなりつつあること,当初掲げられていた商業出版社への対抗戦略としての意味合いは弱まっていることなどがわかった。2)に関しては,Altmetricsの代表的指標であるAltmetricスコアの意味を明らかにするため,学術雑誌論文へのツイートの内容分析を行った。対象は,2014年のAltmetricスコア上位100論文およびWeb of Science収録論文約160万件から無作為抽出した100論文であり,各論文に対するツイート合計約1.1万件に対する内容分析を行った。その結果,両論文集合ともに①大部分が非研究者によるもの,②リツイートが半分以上,③内容は書誌事項や論文紹介,④一つか二つ程度含まれるということがわかった。現状では,ツイート数が大きく反映しているAltmetricsスコアを用いて学術雑誌論文の研究評価をすることは内容面からも困難であると考えられる。 研究成果は以下の通りである。1)に関しては,LIMEDIO Seminar 2016にて「転換期を迎えたオープンアクセス:大学図書館の役割」というタイトルで基調講演を行った。加えて,「続編・変わりゆく大学図書館」(頸草書房,2017年刊行予定)にて「オープンアクセス」の一章が掲載予定である。2)に関しては,Altmetricsに関する代表的国際会議である3rd Altmetrics Conferenceにおいて発表を行った。
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