本研究は、地域住民の意思を反映した民主的な公共図書館行政を実現するために、住民のあり方を追究することを目的としている。平成28年度は主に、昨年度の「図書館づくり住民団体」の役員に対するインタビュー調査で得られた発言内容の詳細な分析を行い、投稿論文を執筆した。 まず、分析の枠組みを「熟議民主主義論」に依拠する意義や妥当性を論理的に説明するために、熟議民主主義に関する文献を改めて精査するとともに、議論の進展を追った。その結果、「第2のガバナンス論」にもとづく民主主義的な正統性を追求するという意義とともに、代表制民主主義に対する批判的視点を有する熟議民主主義論では、「市民社会における」熟議の必要性が強く主張されていること、及び、熟議民主主義の新たな動向である「熟議システム論」の観点から、社会運動と熟議民主主義との関連が指摘されていることを見出した。これらの論拠のもとに、図書館づくり住民団体が市民社会組織に該当し、かつ、その活動は社会運動の側面を持ち合わせていることを説明することによって、熟議民主主義論に基づく考察の妥当性をより明確にした。 インタビュー調査の成果をまとめるにあたり、当初の7団体から「既存の図書館をより良いものとする」および「既存の図書館を建て替える」ための活動をしている4団体を考察の対象とした。6つの分析の視点にもとづき、役員の発言内容の多様性と共通性を整理することにより、図書館づくり住民団体の具体的な実態を明らかにした。さらに、「熟議民主主義の要件」と照合することにより、図書館づくり住民団体が「特定の利益集団に属さない、公的な利益の追求を志向し、参加意識・意欲を有する、母集団と相似しない一部の住民が、学習活動やコミュニケーションによる選好の変容を通じた全員一致の意見を、政治システムに提供する」存在であることを提示した。
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