IT戦略とビジネス戦略との連携に関する学際的な議論を発展させるためには、本研究が提示する「情報システムの柔軟性」が核心となる。本研究では、「中小企業がなぜ、レガシー環境から脱却できないのか」という疑問に対し、この連携のレベルと柔軟性とを用いてそのメカニズムを解明した。この成果を用いれば、「レガシー問題」解決の具体的な検討が出来る。 本研究は、つぎのサブテーマを並行して実施した。 1「企業情報システムの共通理解が醸成されるメカニズム」の状態遷移モデルを作成し,先行研究の精査をとおしてその詳細化を進めた。 2「中小企業のレガシー問題」に関し、つぎの仮説を検証するための準備を進めた。 1)中小企業のレガシー問題:20年以上前の古い情報システム(レガシー) を利用している中小零細企業が多い。その主たる理由は、つぎの3点である(①最小のPOC(コストと時間)で当面の変更需要に対応できるためレガシーを 継続使用する、②新たなIT環境への移行に要する中長期の投資余力(経営資源)が不足している、③新技術導入に対する中長期的な効用を認知できていない)。 2)企業業績とIT成熟度 :比較的新し いIT環境に移行することで、ビジネスのパフォーマンス(業績)が向上する。 3)IT人材不足の解消:新しいI T環境に移行できないのは、優秀な情報人材を確保・育成できないからである。工業団地や商店街などの単位で 自社内同様の目的・利害を共有したIT人材によるITサポートを実現できれば、IT戦略とビジネス戦略の連携レベ ルを高めていくメカニズムを組織に組み込むことができる。 これらの仮説の検証過程を国際学会 ECIS 2014において、また当該研究を発展させるための構想を国際学会 PACIS 2017で発表した。
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