本研究では,単に強いだけでなく,「人を楽しませる」ことを目的とした機能や特徴を持った囲碁プログラムを作成するための研究を行っている.人間同士でも“接待碁”と呼ばれる相手を楽しませるための打ち方が行われることはあり,これの調査分析によって(1)相手がどんな強さで何を面白いと思うかの推定,(2)優勢劣勢の度合いを制御し,手加減によってできれば最後には負けること,(3)その手加減が不自然ではないこと,(4)戦略が多様であること,(5)着手や投了のタイミングが適切であること,(6)自然言語で褒めたり驚いたりすること,が必要であることが分っている. 1年目・2年目の研究の結果として,他のゲームにおける(1),囲碁における(2)(3)(4),および(6)のために必要な専門用語作成が達成された.そのうえで,楽しませる接待碁だけでなく,教育する指導碁についてもプロトタイプを作成した. 3年目(平成28年度)は,この「囲碁を教える」という方向性での研究が大きく進展した.人間プレイヤとの対戦後に,「どの手が悪い手であり,それがどうして悪い手なのか」を機械学習によって判定したうえで説明するための手法を開発し,実装した.この悪手の検出と理由決定の質は,プロ棋士によって「中級者向けには十分価値があるものである」と判定された. 加えて,囲碁以外のゲームについて,「人を楽しませるにはどうしたらよいのか」「何が人間の人間らしさをもたらしているのか」という研究が進展した.アクションゲームにおいては感情を持っているように見えることが大事であること,多人数ゲームでは「挑発」「挨拶」「警告」などをチャットシステムではなくゲーム内の行動で示すことが人間らしさにつながっていることなどが分り,囲碁に限らず「楽しませるAI」を実現するための研究が進展した.
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