本研究の目的は、日本国内における越境酸性汚染物質の実態を解明することである。本年度は、ウエットデニューダー/ミストチャンバーをイオンクロマトグラフに組み込み込んだ酸性汚染物質分析システムの高感度化をはかり、富士山頂で使用できるように改良した。本システムは、酸性ガスと粒子状物質に含まれる陰イオンのデータを1時間にそれぞれ1つずつ出力する。続いて、夏季に富士山頂で分析システムを稼働させ、酸性ガスと粒子状物質に含まれる陰イオン成分の挙動を追跡した。観測期間の98.4%において定量限界以上の大気汚染物質データが得られた。このときの酸性ガス濃度の平均値(n = 64)は、それぞれHNO3: 2.82 nmol m-3、SO2: 3.68 nmol m-3、粒子状物質に含まれる陰イオンの平均値(同)は、それぞれNO3-: 0.36 nmol m-3、SO42-: 6.21 nmol m-3であった。これらは地表面(徳島市)における観測値(HNO3: 9.54 nmol m-3、SO2: 101.57 nmol m-3、NO3-: 25.16 nmol m-3、SO42-: 92.61 nmol m-3)に比べて極めて低い値であった。後方流跡線解析により、富士山頂に流入した気塊は、A: 日本海経由、B: ロシア・中国北部経由、C: 朝鮮半島経由、D: 東シナ海経由の4つに大別することができた。観測期間中、気塊の流入方向は経時的にAから順にDへと変化していった。なお、24時間内に気塊の流入方向が大きく変化した日があったが、本研究では1時間毎に観測データが得られているため、これらの日においても観測データを気塊の流入方向毎に分類することが可能であった。また、大気汚染物質データを後方流跡線データと対応させることにより、高濃度のSO42-がアジア大陸から流入していることが明らかとなった。さらに,アジア大陸を通過した気塊に含まれるSO2は大陸の酸化剤の存在により,SO42-へ酸化が促進されていることが示唆された。
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