研究課題/領域番号 |
26340007
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研究機関 | 松山大学 |
研究代表者 |
槻木 玲美 松山大学, 法学部, 准教授 (20423618)
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研究分担者 |
井上 淳 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (90514456)
加 三千宣 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 准教授 (70448380)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 湖沼 / 古陸水学 / 近過去 / 植物・動物プランクトン / 長期モニタリング / エアロゾル / 大気汚染 / 環境影響評価 |
研究実績の概要 |
本年度は、中央日本の山岳湖沼である長野県白駒池と山梨県の四尾連湖を対象に、昨年度と同様、湖底堆積物を採取し、1) 年代軸確定のため210Pb測定、2) 低次生産変動を復元するための色素・遺骸分析3) 化石燃料燃焼起源指標の球状炭化粒子の分析、4) 気象や集水域環境開発など既存資料の解析を行ってきた。 その結果、長野県の白駒池では、動物プランクトンのミジンコDaphniaやシカクミジンコAlonaが1960年代と1990年代以降、2000年代にかけて、急速に個体数を増加させていることが明らかとなった。2000年代以降は、ミジンコ類が現在にかけて減少に転じていることも判明した。1960年代の増加は、昨年度調査した西日本の小田の池などでも共通して認められている。そこで、この増加が何によってもたらされたものなのか解析を進めた所、この時期に気象条件に大きな変化は認められないが、登山ブームや湖周辺での道路建設など集水域での土地開発が急速に進んできた時期に一致していることが明らかとなった。従って1960年代の増加は、湖周辺の環境改変により、富栄養化が進行した影響が示唆された。一方、1990年代以降の増加は、先行研究で調査していた中部、日本海側のみくりが池、東北地方の蓬莱沼でも共通して認められている。蓬莱沼では、安定同位体や重金属分析の結果から、アジア大陸での経済発展に伴う化石燃焼拡大により、日本に飛来する人為起源エアロゾル量が増加し、栄養塩負荷が高まった結果、基礎生産が増加したことで、動物プランクトンのミジンコも増加した可能性が指摘されている。本年度、調査した白駒池でも増加していることが明らかとなったことから、これまで空白域であった中部日本内陸域の湖沼においても大気からの負荷影響で、我が国の自然豊かな湖沼生態系がここ数十年の間に大きく変わってきている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、中央日本の山岳湖沼を対象に、当初の計画通り、生態系の主要な構成要素である低次生産者の長期的変動を明らかにするための色素や動植物プランクトンの遺骸分析、その変動要因を解明するための球場炭化粒子等の解析を進め、その結果、長野県の白駒池では、想定していた1960年代の増加だけでなく、昨年度やこれまでの先行研究で調査してきた湖でも、1990年代頃から2000年代にかけてミジンコ類が増加する共通した現象が認められることが判明した。本年度、白駒池で認められた1990年代以降のミジンコ類の増加は、これまで空白域であった中央日本の内陸部の湖沼でも近年、低次生産者が増加、減少と生態系が大きく変化している現象が捉えられ、我が国の山岳湖沼の生態系が広範囲に変化している結果が得られ、おおむね順調に推移していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに調査した西日本と中央日本の山岳湖沼について、これまでの分析結果を総合的に加味して低次生産変動の要因について、具体的に検証していく。特に、球場炭化粒子の分析によって得られた結果と既存資料から集水域周辺での環境変化や気象条件の長期データを整理し、低次生産変動に対する大気からの負荷影響を総合的に検証する。また低次生産変化量の空間的な違いが大陸からのエアロゾル飛来量に依存するかどうかを明らかにするために、本研究で調査してきた西日本~中央日本の山岳湖沼だけでなく、これまで先行研究で調査してきた中部日本海側に位置するミクリガ池や東北地方の蓬莱沼、北海道西部のニセコ大沼や東部の羅臼湖を含めて、広範囲での比較検討を行い、人為起源エアロゾルが我が国の山岳湖沼生態系に、どの程度の空間的な広がりを持って影響を及ぼしつつあるのかを明らかにしていく。
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