研究課題
以前の科学研究費基盤研究(C)の手法に基づき、電気化学分析法の一種であるpseudopolarographyによる高安定度錯体の検出を広範な試料について試みた。琵琶湖、手賀沼、及び韓国北東岸に位置する汽水湖(永郎湖:大韓民国束草市)で採取した湖水を用いた。なお、手賀沼・永郎湖の試水については試料採取後ただちにろ過を行い、現場で配位子に十分結合するだけの銅(II)イオンを添加した試料を用意し、pseudopolarography測定2時間前に銅(II)イオンを添加した試料と比較した。これらの測定を行ったところ、琵琶湖北湖表層試料については、長期保存した場合にも、人工配位子として入手できる中で最も安定な錯体を形成するCyclam(濃縮電位-0.65V相当)とほぼ同等の安定度定数をもつ配位子が検出された。手賀沼採取試料、また永郎湖試料でもほぼこれと同じか、やや高い安定度を持つ配位子が検出された。なお電流値は採取直後に銅を添加した場合の方がかなり小さい値となった。これは採取直後には高濃度の配位子が存在しており、これによってpseudopolalography測定における銅(II)イオンの電極への還元濃縮が抑制されていると考えられる。またより低電位である-1.2V付近の電位を示す超高安定度の錯体の存在が示唆された。これらの配位子の一部はきわめて活性が高く、時間経過と共に分解していくと考えられる。このような易分解性かつ安定度の高い錯体を形成する配位子として、淡水域でも硫化物、あるいはチオール基を有する配位子の寄与が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
琵琶湖北湖における調査は予定通り定期的に遂行しており、試料測定はやや滞っているものの、必要な結果のうちpseudopolalographyについては今年度に測定を行う予定である。汽水湖調査についてはすでに韓国汽水湖等の試料を用いた分析結果が得られている。琵琶湖南湖・国内汽水湖試料についても今後採取・分析を行う予定である。分析手法のうちpseudopolalography(Cu錯体)は順調に結果が得られている。また、Fe(II)の錯生成については分光光度法による研究成果が予定通り得られている。競争配位子法を用いる銅配位子の安定度測定とHPLCによる硫化物測定については遅れているが、今年度中に測定法を確立して適用することが可能である。
硫化物と見られる配位子の存在が推定される結果が得られたため、今後、季節や深度を変えた試料を用いて同様にpseudopolalographyによる配位子検出を継続しておこない、起源を推定する。この際に当初予定にあるような水田排水、水田由来物質が多い河川、あるいは下水処理水についても採取を行い、配位子の起源についても調査を始める予定である。この際に必要な硫化物の定量・チオール化合物の分析法を確立し、含硫黄化合物と、それ以外の配位子の存在割合などを、地域や琵琶湖の深度別に明らかにする予定である。
メチレンブルーによる硫化物分析、HPLCによるチオール分析について、2015年度より開始することとしたため、当該分析に必要な器具、試薬購入に必要な費用、および試料採取に用いる旅費を残し、2015年度に使用することとした。
理由に記した化学分析に必要な発色試薬・誘導体化試薬、および分析カラムと固相抽出カラムの購入、および試料採取(おもに汽水湖を対象)に必要な経費として使用する。
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海洋化学研究
巻: 28 ページ: 2-9
陸水研究
巻: 1 ページ: 5-15