琵琶湖など湖水中のチオール類の現存量や動態は明らかになっていない。本年度は湖沼でのチオール濃度を実測するためHPLC分析法を確立し、淡水湖:琵琶湖、汽水湖:宍道湖の懸濁態中各チオール類の濃度を定量、比較した。2016年10月~12月にかけて北湖第一湖盆最深部付近で表層と湖底の琵琶湖水を濾過し、懸濁物を採取した。また11月に宍道湖中央部付近(深度2m:塩分2‰、4.5m:塩分8‰)でも懸濁物を採取した。各試料にSBD-Fを添加、蛍光誘導体化処理してHPLC分析を行った。また、宍道湖採取試料のうち深度4.5mの塩分躍層付近の試料については、Pseudopolarographyを併用して配位子と銅の錯生成について安定度を見積もった。その結果、琵琶湖では表水層(0-10m)で0.1~0.3マイクロモル/L のシスティン、0.9~3.0マイクロモル/Lのグルタチオンが検出された。また宍道湖底付近の深度4.5m(最大深度約5m)採取試料と、深度2m採取試料双方から比較的高濃度のグルタチオン(2m:0.5マイクロモル/L、4.5m: 1.7マイクロモル/L)とシスティン(2m:0.8マイクロモル/L、4.5m: 1.0マイクロモル/L)が検出された。深度4.5mは塩分躍層にあたり、このことがストレス因子となって高濃度のグルタチオン生成を促した可能性がある。溶存態の濃度は未測定であるが、重金属との結合の強さを考慮すると、比較的高濃度のチオールが溶存して、金属の存在形態を支配する可能性が高い。またPseudopolarographyを深度4.5mの試料について行ったところ-0.57V、-0.67V付近、さらに低電位にも半波電位が存在した。-0.67Vは、通常入手可能な人工配位子のうちで最も高い安定度定数を示すCyclamとほぼ同等の値であり、非常に強い配位子の存在を確認できた。
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