研究課題
大気エアロゾルは、呼吸によって生体内に入り込み健康に悪影響を及ぼすことが知られている。エアロゾルの帯電状態については、それが粒子の生体沈着に関わるため重要であるにも関わらず、ほとんど研究が進んでいない。そこで本研究では、実環境大気中エアロゾルの帯電状態を解明することを目的として、その計測手法の開発を行った。平成27年度は、Kelvin Probe Force Microscopy (KPFM) を用いたエアロゾル個別粒子の帯電状態測定方法の開発を進め、下記に示す重要な成果を得た。KPFM測定に適したエアロゾル粒子捕集基板の材質として、PTFEフィルター、ポリカーボネートフィルター、グリッド付きガラス基板を検討したところ、グリッド付きガラスを用いた場合にガラス基板の表面電位が安定してばらつきも小さく、鮮明な像が得られた。さらに、高さ像、KPFM像、共にグリッドが明確に判別でき、また、このグリッドが粒子の高さや表面電位の測定値に影響を及ぼすことはなかった。このため、KPFM測定にはグリッド付きガラス基板が最適であると言える。また、KPFM測定した位置をCCDカメラによって記録した結果とSEMによる観察結果の比較を行い、同一グリッド番号が観察できたことから、KPFM測定を行った同一視野をSEMでも観察を行えることがわかった。測定を行った視野において、正に帯電した粒子、負に帯電した粒子でそれぞれ2個ずつKPFM測定の結果が得られた。正に帯電した粒子の表面電位はそれぞれ、+50 mV、+50 mVであり、負に帯電した粒子の表面電位はそれぞれ、-50 mV、-40 mVであった。さらに、KPFM測定を行った30個の粒子についてSEM/EDX分析を行い、バックグラウンドであるガラス基板とのスペクトルの比較を行ったところ、バックグラウンドとは明確に異なるスペクトルを示す粒子が見出された。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、実環境大気中エアロゾルの帯電状態を解明することである。現在までのところ、表面電位センサ法とファラデーケージ法を並行して利用した実験、およびKelvin Probe Force Microscopyと走査型電子顕微鏡を組み合わせた実験については既に結果を学術論文にて公表していることから、現在までの達成度は、おおむね順調に進展している、と判断した。
今後は、一定の電圧を印加した電極板間にエアロゾル粒子を導入し、荷電粒子の電気移動度により3つの異なる配管に分岐させることで、プラス・ゼロ・マイナスという3つの荷電状態に分別して実験を行ってゆく。分岐した流路下流において、粒子カウンターを用いて粒子数を計測することにより、エアロゾルの帯電状態をリアルタイムで測定する方法の開発を目指す。まず人工的に発生させた粒子の計測を行い、次いで実環境大気中エアロゾルの観測を行う予定である。
小額の未使用分が生じたため
次年度予算と合算し研究費として使用する
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
エアロゾル研究
巻: 30 ページ: 190-197
10.11203/jar.30.190
Asian Journal of Atmospheric Environment
巻: 9 ページ: 137-145
10.5572/ajae.2015.9.2.137