研究課題/領域番号 |
26340016
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研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
遠嶋 康徳 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球環境研究センター, 主席研究員 (40227559)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 大気中酸素濃度 / 連続観測 / 炭素循環 / 大気-海洋ガス交換 / 酸素/二酸化炭素交換比 |
研究実績の概要 |
前年度におおよそのシステム設計ができた低流量型大気中酸素(O2)濃度連続測定装置を、船上での長期観測に向けて、除湿トラップの改良、システムのコンパクト化、装置制御・データ収集ソフトの開発、標準ガスの調製、連続測定試験を実施した。 2段式の除湿用低温トラップの2段目には1/8インチSUS単管を用いていたが、実大気の測定の場合2週間程度でSUS管が氷で詰まることがあった。そこで、1/4インチと1/8インチの溶接管を用い1/4インチ側を入口とすることで詰まるまでの期間を延長することができた。また、搭載予定の貨物船内での装置設置スペースに限りがあることから、大気採取用ポンプユニット、除湿装置、流路切替・圧力流量制御装置、燃料電池式O2計(Oxzilla II)、非分散赤外線吸収法CO2計(LI840)、制御・データ取得用PCからなる全システムを一つのラックに納まるように配置した。装置全体の制御およびO2計・CO2計の出力データの収集にはLabVIEWによって開発したソフトウエアを用いた。さらに、観測に必要なO2用の標準ガスと参照空気の調製を行った。 開発された本システムを用いて研究所の屋上から大気を採取し、2月から8月にかけてO2およびCO2濃度の連続測定を行った。その結果、O2とCO2が逆相関をしながら変動する様子や季節変動の一部を捉えることができた。観測された短期変動に見られるO2/CO2比は2月には1.4だったものが7月には1.2となり、冬季にはガソリン等の燃焼起源の影響を強く受けていることが分かった。 12月に日本-北米間を定期運行する貨物船(New Century 2)に本システムを搭載し船上連続観測を開始した。しかし、除湿トラップが予想以上に早く詰まるという問題や、船の揺れによってO2計の出力が大きく変動するといった問題に直面し、これらの問題解決が急務となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
定期貨物船での長期連続観測を実現するためには、メンテナンスが簡便で消耗品等の交換頻度が少なくて済む測定システムである必要がある。今回開発した分析システムは、流量制御にマスフローコントローラ、流路切替にデッドボリュームの小さいValco社のバルブを用い、さらにO2計の出口側で精密に圧力制御を行うことで、毎分10mLという小流量でも極めてシャープな応答とO2の分析精度1ppm以下を実現した。また、スターリング式冷却機のコールドヘッドにステンレス管を固定するアルミブロックと、その外側にガラス製トラップを密着させることで、冷媒を使わずに2つのトラップを同時に冷却できる、コンパクトな除湿装置を開発することができた。実験室という極めて安定した環境では、大気中のO2およびCO2濃度の観測に十分な精度に到達した。また、つくばにおける実際の大気試料の観測でもO2とCO2濃度の逆相関やO2/CO2比の季節による違い等が検出でき、本システムの性能が観測に十分であることが証明された。ここまでは、予定通りのペースで装置開発が進み、平成27年度内に貨物船への搭載を実現できた。 しかし、実際に貨物船での観測を開始すると当初予想していなかった2つの問題が発生した。1つ目は、除湿用のSUSトラップが予定よりも早く詰まるという問題であり、2つ目は船の揺れに対してO2計の出力が大きく変動するという問題である。前者については除湿用SUSトラップを2系統にして使用するSUSトラップを選択できるようにすることで観測時間を2倍にするように改良した。しかし、それでもかなり早くSUSとラップが詰まることがあり、更なる改良が必要となっている。後者については、船体の揺れに対するO2計の出力の応答を調べることで、出力の補正ができないか検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
貨物船で大気中O2濃度の連続観測を開始してから判明した2つの問題点の解決に取り組む。除湿の問題については、2段目のSUSトラップが予想よりも早く詰まる原因の一つとして、1段目のガラストラップの除湿効率が不十分で2段目のSUSトラップに流れ込む水の量が多いことが考えられる。そこで、ガラストラップの除湿・冷却効率を上げるために、ガラストラップ内にガラスビーズ等を充填したり、ガラストラップの周囲を断熱したりする等の改良を試みる。 船体の揺れがO2計に及ぼす影響を見ると、数秒~数十秒の揺れに対してO2計の出力に応答が見られ、揺れの大きさにもよるが数十ppmの変動が引き起こされる。そこで、揺れと出力変動の関係を詳しく調べるために、加速度センサーを設置して船の動揺を定量的に把握し、どのような揺れに対してO2計の出力が変化するかを調べ、O2計出力の補正方法を検討する。 現状では船体の動揺の影響が大きいため、短時間の変動を調べることはできないが、長時間の平均を取ることで揺れの影響をキャンセルできると考えられる。したがって、日本-北米間の北太平洋におけるO2 濃度の広域分布を調べるとともに、NC2で同時に採取されたフラスコ試料のO2濃度の結果と比較し、船上連続観測の評価を行う。なお、フラスコ試料の本数は1航海あたり7本と限られているため、船上O2観測の空間分解が悪いとしてもO2濃度の広域分布を明らかにできると考えられる。また、船体動揺の影響をある程度取り除くことができれば、CO2の高濃度イベント時のO2/CO2変動比を求め、CO2の発生源の推定も実施する。さらに、太平洋中緯度帯では春から初夏にかけて発生する植物プランクトンの急増現象(ブルーミング)に伴うO2の放出や、秋から冬にかけて表面海水温低下による鉛直混合に伴うO2の吸収などの検出を目指す。最終的にこれらの成果を取りまとめ、発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
貨物船で大気中O2濃度の連続観測を開始したところ、除湿トラップが予想外の早さで詰まってしまう問題と、船の動揺がO2計の出力に影響するという2つの問題が発生した。そのため、次年度にこれらの問題を解決するために、除湿トラップの改良や、船の動揺を計測するための3軸加速度センサー等を購入する必要が生じたため、予算の一部を次年度に繰り越すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度に発生した問題を解決するために、除湿とラップの改良および船体の動揺を計測するために3軸加速度センサーを購入する。
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