研究課題/領域番号 |
26340017
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
高橋 浩 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 活断層・火山研究部門, 主任研究員 (70357367)
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研究分担者 |
荒巻 能史 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球環境研究センター, 主任研究員 (00354994)
南 雅代 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 准教授 (90324392)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 放射性炭素 / 水試料 / 相互比較 |
研究実績の概要 |
海水試料で沈殿法を適用すると炭素収量が少ない原因の検討を行った.人工海水に塩化ストロンチウム溶液を添加して形成した沈殿は,化学分析によりストロンチウムと硫黄からなることがわかり,炭酸塩よりも硫酸塩が優先的に沈殿するため,炭素収量が低くなることが実証された.また,人工海水の作成濃度を変えて,規定の10倍,1倍,0.1倍とすると,炭素収量が20%,53%,82%と徐々に増加した.溶存無機炭素と硫酸の濃度比は一定でも,それらの量に対する塩化ストロンチウム溶液の量が収率に影響を与えると考えられ,炭素収量向上の可能性が示された. 天然試料における生物活動による同位体比の変化の影響を軽減するために,試料のろ過について,同位体比の変化と微生物量の測定の両面から検証した.ろ過の実施は有効であるが,ろ紙の材質によっては逆効果であることがわかった.また,微生物を除去できなくても,有機物の除去を行うことで,相当な効果があることがわかった. 相互比較を実施するために生物活動の影響を排除しつつも,天然試料と同じような比較用の試料が必要であるが,人工海水が沈殿法での沈殿形成を阻害することから,天然試料を殺菌するよりも,試薬調製する方が相互比較試料として適していることがわかった.比較試料は化学組成も放射性炭素(14C)濃度も天然を反映すべきである.試薬を混合するのみでは14Cを含まない試料となると考えられるため,現代炭素CO2を吸収させたアルカリ溶液を混合して,14C濃度をコントロールした.作成試料の化学組成や14C濃度は,目的とした値が再現できていたが,未添加成分の硝酸が検出され,作業中の汚染が考えられた.そこで,4ヶ月ほどの間隔をおいて,14C濃度を確認したところ変化がほとんど無かった.これにより,相互比較試料は目標としたレベルで作成できたことが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
UV殺菌の効果については,準備をすすめたものの,試薬調製による比較試料の作成が最も有効であることがわかったことから,検証が不要となった. 試薬調製による相互比較試料の作成は予定通りの時期に完了し,作成した試料の化学組成や14C濃度も目標としたものとなっていた.しかし,作業時の汚染と思われる化学成分の混入があったことから,試料の14C濃度が長期にわたって変化しないことを検証する必要が生じ,その検証を数ヶ月かけて実施した.そのため,相互比較の実施の段階に進めておらず,この点で計画より遅れが出ている.ただし,作成した比較試料は,研究目的を達成するために十分であることが確認できており,最終的な研究目的の達成には大きく影響しない. 成果公表を予定していた放射性炭素国際学会(22nd International Radiocarbon Conference)の開催地がエボラ熱の感染国であったこともあり,参加を見合わせた.その代わりに東アジア加速器質量分析計シンポジウム(6th East Asia Accelerator Mass Spectrometry Symposium)において,研究進捗の報告を行った.シンポジウムには14C研究を世界的にリードする各国の研究者が参加しており,本プロジェクトの実施について,技術的な疑念がないことを確認することができた. 学会における本プロジェクトへの参加の呼びかけを継続して,新たに複数の機関から参加の意志の表明を受けるなど準備は確実に進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでのところ,研究進捗にやや遅れがみられるが,相互比較の実施という研究目的の達成に大きく影響しないと考えている.ただし,相互比較の実施は多くの機関の協力の元で行われるために,大幅な時間短縮は困難であるため,最終的な相互比較に関する成果公表が,3年間の研究期間内に終了することが難しくなっている.必要が生じれば,成果公表のための期間を設けるために事業期間延長承認申請を行うことも考慮する.
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次年度使用額が生じた理由 |
参加予定であった学会の開催地がエボラ熱の感染国であったこともあり,参加を見合わせたために,旅費の未執行額がある.また,試料作成において,予期せぬ成分が検出されたために,その影響がないことを確認する期間を設けたため,実験や試料送付に遅れがあり,その分の経費が未執行となっている.
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次年度使用額の使用計画 |
予期せぬ成分による研究計画への影響がないことがわかったため,次年度から計画を進捗させ,実験や試料送付に経費を振り向ける.また,学会等に積極的に参加して成果公表に努めるとともに,参加機関の担当者による会合を行い,研究成果をそれぞれの研究現場へのフィードバックを図ることに努めることに経費を振り向ける.
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