研究課題/領域番号 |
26340018
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
朴 昊澤 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 主任研究員 (10647663)
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研究分担者 |
大島 和裕 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 研究員 (40400006)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 河川水の熱フラックス / 河川流出量 / モデル / 海氷減少 |
研究実績の概要 |
河川水の水温が計算できるモデルを分布型水文モデルに結合して、温暖化が顕著であった1979-2009年間における環北極域の河川から北極海に流入する熱フラックスを計算した。また、モデルは河川氷の結氷・融解のプロセスを取り込み、河川流出への河川氷の影響を評価した。計算した河川流出量及び水温は観測データと比較を行い、モデルの計算が適切であったことを確認した。1979-2009年の間で北極海へ流入する年河川流出量は4300km3であり、その量は従来報告された結果より900km3高いことを確認した。計算期間中の河川水の平均熱フラックスは90 EJ/yrであり、年間0.30 EJの増加トレンドを示した。熱フラックスの増加はシベリア河川で、また河川流出のピークが発生する春季に顕著であった。 北極海の熱環境への河川水の熱フラックスの影響を調べるために、1950年以降の沿岸域の鉛直水温プロファイルの観測データの収集を行った。淡水の割合が高い表層(20m)において河川水の熱フラックスと海水温との相関が高かったことを確認した。北極海の氷が後退する前に河川から大量の熱が運ばれる。その時期に、大気から海氷へ伝達するエネルギーは大きくない。そのため、河川水の熱は海氷融解のためのエネルギー源として働いていることが考えられる。北極海の沿岸域を4つの領域に分割して、各領域における6月までの海氷密接度の減少率と河川水の熱フラックスの積算値との関係を調べた。その結果、両者の関係が非常に高くて、シベリアの領域でより顕著であることを確認した。この結果は、河川水が海氷の融解に影響していたことを示唆する新知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度においては観測データの収集、モデルの構築及び流出量と河川水の熱フラックスのトレンド解析を研究目的の達成のために年次計画として設定していた。 北極河川における水温の観測地点は大河川の出口に限られており、観測地点も1990年以降、特にシベリアにおいて減少傾向が見られる。北米においては観測歴史はシベリアに比べて短いが、相対的にデータのオープンが遅れている。このような状況の中、ロシアと北米の水温・流出量の観測データを収集した。また、北極海の沿岸域における海水温の鉛直プロファイルの観測データの収集を行い、1950年以降のデータセットの構築を行った。 河川水の水温の観測データが限られているため、河川から北極海に流入する熱フラックスを見積もるためにはモデルの開発が求められる。河川水を計算する分布型水文モデルに水温計算モデルと河川氷の変動モデルを取り込み、その水文モデルを既存の陸面過程モデル(CHANGE)と結合させて、河川流出量と熱フラックスの計算を行った。観測データとの比較を通して計算結果が適切であることも確認した。 1979-2009年の間で北極河川からの流出量は明らかに増加傾向にあったことを観測データ及びモデル結果から確認した。その増加はシベリア河川でより顕著であって、夏以外の全季節において増加していたことが分かった。流出量と連動して熱フラックスも明らかに増加トレンドを示した。特に、2000年代において増加がより顕著であった。 以上により当初予定した計画は順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
海水温の鉛直観測データとモデルから計算された河川水の熱フラックス、6月における沿岸域の海氷密接度と河川水の熱フラックスの間で高い相関が認められた。この結果から、海氷が後退し始まる春季において河川水の熱フラックスの影響が大きいことが言える。また、北極海に輸送した河川水は地形などの影響により陸棚に1-2年滞在して、淡水及び熱収支に影響していることが報告された。この結果は、秋季の海氷の形成に対する河川水の影響を示唆する。この関係を調べるために、いくつかのフォーシングデータを使用して熱フラックスの季節・経年変化及びトレンドを定量化する。海水温及び海氷密接度に対する河川水の熱フラックスの変化の影響を統計解析を用いて定量的に評価する。特に、河川水の熱フラックスがもたらす春季の海氷融解面積及び秋季の海氷形成の遅れに寄与する面積を定量化する。海氷に流入した河川水の熱が海水の熱環境に及ぼす影響を観測データ及び再解析データを用いて陸棚から沖域へ展開していく熱環境の時・空間変化を評価する。 河川水の水温がピークに達する夏季において河川流出量の減少が確認された。その減少には蒸発散量の影響が考えられる。しかし、蒸発散量に対する定量的評価は行われていない。最近、確認された北極陸域への水蒸気輸送の増加による湿潤化と気温上昇が蒸発散量にどのように影響しているのかを評価した上で、夏季の流出量の減少の原因を明らかにしなければならない。
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次年度使用額が生じた理由 |
海水温のプロファイルデータの収集のためにアラスカ大のフェアバンクス校を訪問する予定であったが、メールを通してデータの提供が可能であったため、旅費に未使用額が生じた。また、データの格納用のサーバーの購入を計画していたが、データの容量が予想より大きくなく、既存のサーバーで十分対応できることから購入を行わなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
河川氷の変化に関する理解と、河川氷の動態を計算するモデルのパラメータの精緻化と、モデルの計算結果との比較のため、ロシアの主要河川における河川水温及び河川氷厚の観測データを購入する。また、研究打合せと、国内成果発表・情報収集のための学会旅費及び本研究で得られたデータや知見について海外研究協力者と議論を深めるための海外旅費に使用する。このほか論文投稿の英文校閲費、論文別刷費、学会参加費に充てる。
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