研究課題/領域番号 |
26340025
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中津 可道 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00207820)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | DNA損傷 / 細胞死 / 複合体 / ミスマッチ修復 |
研究実績の概要 |
MUTYHは8-oxoGに対して取り込まれたadenineを除去し、G:C→T:A変異を抑制するDNA修復酵素で、MutSの構成因子MSH6, Ape1, PCNAと相互作用する。Ape1との相互作用はDNA修復能を増強するが、in vitro酵素反応系では、MutSやPCNAとの相互作用はMUTYHのDNA修復能に影響を与えず、これらの相互作用の生理学的意義は不明である。MUTYHと複合体を形成するMMRタンパク質とPCNAはアルキル化剤による細胞死誘導時に相互作用が増強されることや、さらにMUTYHはDNA損傷応答に重要な働きをするRad9-Hus1-Rad1 (9-1-1) 複合体とも相互作用することが報告されている。従って、MUTYHはこれらの相互作用を介して細胞死誘導に重要な働きをしていることが考えられる。 平成26年度の研究では酸化ストレス負荷によるMUTYH/Rad9-Hus1-Rad1 (9-1-1) 複合体の形成は確認できなかったので、平成27年度は酸化ストレス負荷に加え、アルキル化剤の負荷をかけた細胞内に形成されるMUTYH複合体を免疫沈降法により単離し、複合体に含まれるタンパク質群をイムノブロット法で検討した。その結果、MUTYHは酸化ストレス負荷ではDNA polymerase deltaおよびMLH1と相互作用することが確認されたが、アルキル化剤の負荷ではDNA polymerase deltaとの複合体形成は認められなかった。また、9-1-1複合体との相互作用は酸化ストレス負荷およびアルキル化剤の負荷をかけられた細胞では確認できなかった。一方、MUTYH/MutS/PCNA複合体の機能を解明するために、MSH2変異体やMUTYH変異体を作製し、EBNA1-OriPプラスミドを用いてこれらの安定発現株の樹立を行い検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)アルキル化剤誘発細胞死誘導時のMUTYHタンパク質複合体の解析 MNU処理したFlag-MUTYH安定発現HEK293細胞よりアルキル化DNA損傷により形成される複合体を抗Flag抗体による免疫沈降法により単離し、MUTYHと複合体を形成するタンパク質群をイムノブロット法で検討した。その結果、MLH1がMUTYHと複合体に含まれることが解ったが、9-1-1複合体との相互作用は確認できなかった。我々が発見した相互作用は再現できるが、他の研究者により報告されている相互作用は確認できていないので、細胞抽出液の調整法等も検討を加えている。 2)酸化ストレス誘発時のMUTYHとPCNAとの相互作用の解析 MUTYHのPCNA結合領域に含まれる524番目のセリン(S524)がリン酸化されることが報告されている。酸化ストレス負荷とS524のリン酸化との関連を解明するために、S524AおよびS524D変異体を作製してPCNAとの相互作用への影響を検討しているが、これまでに我々の実験系では酸化ストレス負荷によるMUTYHのリン酸化は観察できていない。 3)酸化ストレス誘発時のMUTYHとMMRとの相互作用の解析 MUTYHはアミノ酸232-254の領域でMutSalphaと相互作用することが知られている。この領域のアミノ酸で9種の脊椎動物で保存されているI235, D238およびW249のアラニン置換変異を導入した変異型MUTYHを作製し、EBNA1-OriPプラスミドを用いてこれらの安定発現株の樹立を行いMUTYHとMutSalphaとの相互作用を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
1)酸化ストレス誘発細胞死誘導時のMUTYHタンパク質複合体の解析 MUTYH/MutSalpha/PCNA複合体の全体像を明らかにするために、Flag-MUTYHを安定に発現する細胞株を実験材料に用い、酸化ストレス負荷により形成される複合体を抗Flag抗体による免疫沈降法により単離する。単離した複合体を質量分析にかけ、酸化ストレス負荷に依存してMUTYHと複合体を形成するタンパク質群を同定する。新たに複合体の構成タンパク質が見つかった場合は、RNAiによりそれらの発現を抑制した細胞を用いて、酸化ストレス誘発突然変異と細胞死の解析を行い、それらのタンパク質の複合体における機能解析を行う。 2)酸化ストレス誘発時のMUTYHとPCNAとの相互作用の解析 平成27年度に引き続き、MUTYHのPCNA結合領域に含まれるセリン(S524)のリン酸化をミミックした、セリンをアスパラギン酸に置換したS524D、およびリン酸化されないようにセリンをアラニンに置換したS524Aを持つFlag-MUTYH、およびPCNAとの相互作用ができない変異型MUTYH (F518A, F519A)の安定発現株の解析を行い、酸化ストレス誘発突然変異と細胞死の解析を行うことで、MUTYH/PCNA相互作用の意義を解明する。 3)酸化ストレス誘発時のMUTYHとMMRとの相互作用の解析 MutSalphaと相互作用するMUTYHのアミノ酸232-254の領域内で9種の脊椎動物で保存されているI235, D238およびW249のアラニン置換変異を導入した変異型MUTYHをEBNA1-OriPプラスミドを用いて安定発現株を樹立し、酸化ストレス誘発MUTYH/ MutSalpha複合体形成について検討し、酸化ストレス誘発突然変異と細胞死の解析を行うことで、MUTYHとMutSalphaとの相互作用の意義を解明する。
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