研究課題/領域番号 |
26340026
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
松山 睦美(松鵜睦美) 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 助教 (00274639)
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研究分担者 |
中島 正洋 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 教授 (50284683)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 甲状腺濾胞上皮 / ラット / 放射線 / 発がん / オートファジー |
研究実績の概要 |
甲状腺は若年での放射線被爆による発がんリスクの高い臓器であるがその理由はよく解っていない。放射線誘発甲状腺発がんの年齢影響やメカニズムについて明らかにするため、未熟4週齢(4W)と成熟7ヶ月齢(7M)ラットに8GyのX線を局所照射し、慢性期の発癌に至るまでの放射線応答、増殖能(Ki67陽性細胞数)、DNA損傷応答分子(53BP1核内フォーカス数、セリン15リン酸化p53)、アポトーシス(TUNEL陽性細胞数)、細胞老化(p16)、オートファジー(LC3, p62)などについて分子病理学的に調べた。今年度は照射後12ヶ月までの変化を解析した。 照射群の体重増加は4Wでは非照射群に比べ有意に低値だが7Mでは変化がない。照射後Ki67陽性細胞数は両週齢共1ヶ月で非照射群に比べ有意に増加し、6ヶ月後減少、12ヶ月後に再び増加した。53BP1核内フォーカス数は4Wで1ヶ月後非照射よりも高値で,7Mは1及び6ヶ月後高値であったが12ヶ月後には両週齡共減少した。セリン15リン酸化p53は、4Wのみ1ヶ月後非照射よりも高値を示したが、6, 12ヶ月後では両週齡共減少した。TUNEL陽性細胞も同じく4Wは1ヶ月で非照射に比べ有意に増加したが6ヶ月後には減少し、7Mでは変化がなかった。LC3-IIの発現は両週齢共変化しなかったが、4Wでは12ヶ月でp16とp62の発現が4例中2例増加しており、7Mでは変化がなかった。 4Wでは照射後1ヶ月で甲状腺濾胞上皮のゲノム損傷応答(DDR)が見られたが7Mでは変化なく、両週齢共照射後12ヶ月までDDRの増加は見られなかった。4Wでp16の発現増加による老化の促進とオートファジー不全によるp62の蓄積が起きている可能性があるが照射後12ヶ月では両週齢共発がんに至っていない。今後未熟及び成熟ラットの18ヶ月後の甲状腺腫瘍形成について調べていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は放射線誘発甲状腺発がんの年齢影響を分子病理学的手法で明らかにすることを目的としており、今年度の計画は.若年と成熟ラット甲状腺に局所外照射を行い、慢性期の発癌に至るまでの放射線応答について分子病理学的に調べることである。平成26年の計画に従って研究を実施した。未熟4週齢(4W)と成熟8カ月齢(8M)の雄性ウィスターラットに、X線8 Gyを前頚部に局所照射し、1, 6, 12ヶ月後 (各n=6)の甲状腺組織を採取し、片側右葉はホルマリン固定後組織切片標本を作製した。左葉はウェスタンブロット用組織として-80℃で凍結保存後タンパクを抽出した。コントロールには各週齢の非照射のラットから同じタイムポイントで甲状腺を採取した(各n=6)。増殖細胞はKi67免疫染色、細胞死はTUNEL染色、DNA損傷応答分子は53BP1蛍光免疫染色を行い、甲状腺濾胞上皮当たりの陽性細胞数と核内フォーカス数を顕微鏡画像400倍下でカウントして算出した。ウェスタンブロットでセリン15リン酸化p53, p16, LC3, p62 の発現変化を調べ、ゲノム損傷応答(DNA damage response, DDR)とオートファジー関連蛋白の経時的な変化について解析した。これらの研究成果は、平成26年度に国内の研究会で発表し、和文雑誌に2報掲載し、英語論文に2報報告し、本研究成果を国内外に発信した。
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今後の研究の推進方策 |
若年と成熟ラットの甲状腺発がんの発症率を比較する。腫瘍組織でのオートファジー関連蛋白の発現をLC3, p62, Beclin1免疫染色により調べる。腫瘍部と非腫瘍部でのオートファジー関連遺伝子の網羅的解析による比較を行う。具体的には未熟と成熟ラットの照射後慢性期の腫瘍部と非腫瘍部の甲状腺からRNAを抽出し、オートファジー関連遺伝子の発現をAutophagy PCR Array (QIAGEN)を用いて、オートファジーやアポトーシスに関連する86遺伝子の発現を調べる。コントロールには非照射の同じ週齢のラット甲状腺を用いる。 ラット甲状腺濾胞上皮細胞株(FRTL-5)を用いて、オートファジーの誘導剤(ラパマイシン)と阻害剤 (3-MA)投与により放射線照射後の生存率と細胞死がどのように起きるのかを調べ、甲状腺細胞における放射線感受性に対するオートファジーの役割について調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文投稿料に使用するため残していたが、63,851円よりも高額になったため、別の予算から論文投稿料は支払うことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度で使用するキアゲン社のAutophagy PCR Arrayに関する試薬類が高額であるため、その費用に充てる予定である。
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