研究実績の概要 |
甲状腺は若年での放射線被爆による発がんリスクの高い臓器であるが、その理由はよくわかっていない。放射線誘発甲状腺発がんの年齢影響やメカニズムについて明らかにするため、未熟4週齢と成熟7ヵ月齢ラットに8 Gy のX線を局所照射し、18ヵ月後甲状腺組織を摘出し、腫瘍の発生率、組織学的変化について解析を行った。 腫瘍発生率は、4週齢ラット非照射群では7例中0例(0%)に対し、照射群では9例中4例(44.4%)だった。7か月齢ラットでは非照射群6例中1例(16.7%)に対し照射群6例中2例 (33.3%)だった。Ki67, TTF1, サイログロブリン, カルシトニン免疫染色で、4週齢照射群の1例がサイログロブリン陽性カルシトニン陰性の低分化癌、3例がサイログロブリン陰性カルシトニン陽性の髄様癌だった。7ヵ月齢ラット非照射と照射群の1例は髄様癌で、残り1例は不明だった。非腫瘍部のオートファジー関連PCR Arrayでは、4週齢照射低分化癌でオートファジー調節因子Cdkn2a, Ctss, Cxcr4, Tgfb1, Tnf, TP53の増加と、Eif2ak3, Mapt, Pim2の減少を認めた。4週齢照射髄様癌の1例では、Atg4b, Atg5, Gabarapl2, Rab24などのオートファジー構成分子の低下が見られた。免疫染色では両週齢のがん周囲の濾胞上皮細胞質にオートファジー選択基質であるp62発現が観察され、4週齢放射線誘発低分化癌の腫瘍部ではp62の発現は見られなかった。若齢被曝ではオートファジー関連分子の発現調節異常が発がんリスク亢進メカニズムのひとつとして示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は放射線誘発甲状腺発がんの年齢影響を分子病理学的手法で明らかにすることを目的としており、今年度の計画は、前年度に照射した未熟及び成熟ラットから18カ月後の甲状腺組織を採取し、発がんの発症率、オートファジー関連タンパクの発現、オートファジー関連遺伝子の発現をAutophagy PCR Array (QIAGEN)により網羅的に調べることである。未熟4週齢(4W)16匹と成熟7ヵ月齢(7M)12匹雄性ウィスターラットにX線8Gyを前頸部に局所照射し、17-18ヵ月後に生存しているラットをSacrificeし、甲状腺組織を摘出した。甲状腺組識の半分はホルマリン固定後組織切片標本を作製した。残り半分は-80℃で凍結保存後RNAを抽出し解析に供した。コントロールには非照射の4W12匹、7M13匹を15-18ヵ月まで飼育し、生存したラットから同様に甲状腺を採取した。4W非照射では7例中腫瘍は0例(0%)、照射群では9例中4例だった(44.4%)。7Mは非照射6例中1例(16.7%)、照射群6例中2例(33.3%)に腫瘍が確認された。得られた組織標本から、Ki67, TTF1, サイログロブリン, カルシトニン免疫染色を行い、腫瘍を分類した。オートファジーマーカーであるLC3, p62, Beclin1の発現を免疫染色で調べた。4W放射線誘発低分化癌、髄様癌、7M放射線誘発髄様癌、自然発症髄様癌の甲状腺組織1例ずつをPCR Arrayを用いて、非照射組織に対するオートファジー関連遺伝子の変化を調べた。 おおむね平成27年の計画に沿って実験を実施した。これらの研究成果は平成27年度に国際学会に2回、国内学会2回、国内研究会に1回発表し、本研究成果を国内外に発信した。
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今後の研究の推進方策 |
予想に反して約18ヵ月まで生存したラットが少なく、特に高週齢ラットでは途中で約半数が死亡した。今回の結果から癌の発症率が4週齢の非照射群では 0%に比べ照射群で44.4%と高くなることが分かったが、数が少ないため有意差検定で有意差がでなかった。さらに数を増やすため、4週齢非照射群12匹、照射群17匹、高週齢として4ヵ月齢非照射群14匹、照射群14匹を再度照射し、長期観察を行っている。18カ月後の甲状腺組織を採取し、結果を合わせて未熟ラットと成熟ラットの放射線誘発甲状腺癌の発症率を出す予定である。また、PCR Arrayで放射線照射により誘導された癌で変動した遺伝子のいくつかが明らかになった。それらの遺伝子が本当に増加または減少しているのか、他のサンプルではどうなのかを調べるため、いくつかのプライマー(e.g. Cxcr4, Cdkn2a, Ctss, Tgfb, Tnf, TP53 Atg4b, Atg5, Dapk1, Mapt, Nfkb1)を選び、RT-PCRにより検証を行う。放射線誘発甲状腺癌と自然発症甲状腺癌と異なる遺伝子変化があるのかどうか、若週齢と高週齢の放射線誘発甲状腺癌で異なる遺伝子変化があるのかどうか調べる予定である。これらの研究成果は、英語論文にまとめ国外に発信する予定である。
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