研究実績の概要 |
甲状腺は若年での放射線被曝による発癌リスクの高い臓器であるが、その機序は不明である。本研究は、放射線誘発甲状腺発がんの年齢影響を分子病理学的手法で明らかにすることを目的とする。未熟4週齢 (4W)、成熟4ヵ月齢 (4M)、7ヵ月齢 (7M)ラットに8 Gy X線を局所照射し、約18ヵ月後甲状腺腫瘍の発生率、腫瘍の組織学的分類、増殖細胞数を調べた。4Wと7Mの放射線誘発甲状腺癌と自然発症癌のオートファジー関連遺伝子のPCR Array解析の結果、変化のある7遺伝子をRT-PCRで発現解析を行った。 腫瘍発生率は、4Wは非照射群で16例中0例 (0%)に対し、照射群では21例中13例 (61.9%)だった。4Mは非照射で7例中1例 (14.3%)に対し、照射群では11例中7例 (63.6%)だった。7Mは非照射で6例中1例 (16.7%)に対し、照射群は6例中2例 (33.3%)だった。4WでAdenoma2例、髄様癌4例、両葉に低分化癌と髄様癌が1例、両葉に髄様癌と上皮性腫瘍が3例、multifocalな上皮性腫瘍2例、両葉高分化癌1例だった。4Mは、Adenoma2例、髄様癌2例、高分化癌2例、両葉高分化癌1例だった。7Mでは髄様癌が2例であった。腫瘍の個数は、4Wは28個、4Mは9個、7Mは2個で、1つの症例に2個以上の腫瘍を持つ数が非照射に比べ4Wでは有意に高く、他の週齢では差がなかった。この結果からラットの放射線誘発甲状腺腫瘍は週齢が低いほど多発性に起きることが明らかになった。RT-PCRの結果、放射線誘発腫瘍、自然発生腫瘍共にCxcr4, Cdkn2a, Tnfの発現が増加した。4W,7M共に放射線誘発腫瘍のいくつかでCtssとTGF-beta1の発現が増加した。オートファジー構成因子のAtg5とAtg4bの発現低下が、4Wの放射線誘発甲状腺癌の数例で見られた。
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