研究課題
研究実施計画に基づいて以下の項目について研究を進めた。第一に、ヒトPolηとその出芽酵母ホモログであるRad30との立体構造レベルの比較から、ヒトPolηに特徴的なアミノ酸の置換変異および部分アミノ酸欠失変異を導入したヒトPolη変異体の発現と精製、さらにDNA合成活性、DNA結合活性、損傷乗り越え合成活性の評価を行った。その結果、アミノ酸点変異体についてDNA結合活性、DNA合成活性、損傷乗り越えDNA合成活性を調べることができ、当初の目的とした基礎情報の収集がかなった。一方で、欠失型変異体については可溶化に問題が生じたことから、タグの種類を変更する準備を進めた。第二にヒトPolη変異体を発現する細胞を樹立し、それらの紫外線に対する感受性からヒトPolηが単独でTLSを行うことが可能な反応におけるアミノ酸置換変異ならびに欠失変異の影響を調べた。その結果、紫外線損傷応答でのヒトPolηの機能に重要なアミノ酸を複数明らかにすることができた。一方で、シスプラチン等のDNA傷害剤が及ぼす影響の解析については次年度以降に持ち越すこととした。第三に、ヒトPolηと相互作用するタンパク質の探索を行い、予定通りマススペクトル解析に供するサンプルを多数得た。これらは、次年度以降に解析を行う予定である。第四として、ヒトPolηのW297変異体のヌクレオチドによる活性阻害試験を行った。様々なヌクレオチドアナログを用いた解析の結果、W297とdATPの特異的な相互作用が、ヒトPolηと基質DNAとの過度な親和性を回避する機構が示唆された。この結果を踏まえ、次年度以降にはW297変異体ヒトPolηを発現する細胞のDNA傷害剤に対する感受性を調べる予定である。このほか、次年度以降に行う予定であったヒトPolηの活性を特異的に阻害する物質の探索に向け、アッセイ系の確立と予備的実験を行った。
2: おおむね順調に進展している
初年度の研究開始に先立って準備を進めていたこともあり、当初の予定通り進展しているといえる。しかし一部の変異体について組換えタンパク質の可溶性が問題になる等、全体の計画遂行への影響は少ないものの、若干の軌道修正をした箇所もあった。一方で試験的な段階ではあるが、相互作用タンパク質の探索と活性阻害試験において次年度以降への試金石と成りうる結果も得られている。全体的に評価すると、「②おおむね順調に進展している」と評価できる。
第一に、初年度に得た各変異体の生化学的解析から得られる基礎情報と細胞レベルでの解析で得られた情報との統合を進めていく。具体的にはヒトPolηのDNA損傷応答機構での役割とその制御にかかわる分子を特定することを目標とする。そのためには、ヒトPolηと相互作用する分子の特定が重要であると考え、マススペクトル解析を積極的に進める予定である。第二に、ヒトPolηの特異的阻害剤のスクリーニングを開始する。幸いに、初年度にハイスループットなアッセイ系のめどが立ったことと、すでに化合物ライブラリーの入手についても他研究機関との調整が順調であることから、全体を通して、当初の研究計画の変更等の必要はない。
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DNA Repair
巻: 29 ページ: 139-146
10.1016/j.dnarep.2015.02.006.
巻: 22 ページ: 112-122
10.1016/j.dnarep.2014.07.012.
http://www-cc.gakushuin.ac.jp/~20080213/