研究課題
本年度は、研究実施計画に基づいて初年度で得られた結果を足掛かりとした以下のxつの項目について研究を進めた。第一に、欠失型変異体ヒトPolηの発現精製を目的としてN末端にGSTタグを付加することで、可溶性の向上と部分精製に成功した。これにより、初年度に得られたアミノ酸点変異体ヒトPolηの生化学的解析と同様の研究の実施に向けて大きく前進した。第二に、初年度での実施が適わなかったシスプラチンン対する感受性を、アミノ酸点変異体ヒトPolηおよび欠失型変異体ヒトPolηを発現する細胞で実施し、紫外線損傷に対する感受性との比較を行うことができた。結果として、主に欠失型変異体ヒトPolηにおいて紫外線への抵抗性に重要と予想される領域を見出すことに成功した。第三に、DNA損傷誘発時のヒトPolηの細胞内局在の変化について各種変異体発現細胞を用いて解析した。その結果、紫外線損傷への抵抗性と核内の紫外線損傷部位へのヒトPolηの集積に相関を見いだせた。これにより、紫外線依存的なヒトPolηの損傷部位への集積に重要な新規の領域の存在を確認できた。第四として、初年度に実施したヒトPolηと相互作用する因子の解析結果を発展させ、従来、DNA二本鎖切断修復への関与が報告されているUSP11とヒトPolηの相互作用を新規に見出した。この相互作用の生理的意義について、次年度以降に解析を行うこととした、第五として、理化学研究所の天然化合物ライブラリーを用いてヒトPolηを阻害する化合物の探索を行った。約30,000種類の化合物を代表する3,400種類の化合物と結合実験を行い、相互作用する結合分子と構造の類似した化合物を足掛かりとして、試験管内でのヒトPolηの活性への影響を調べた。結果として、複数種類の化合物でヒトPolηに特異性が期待される阻害効果が見いだせた。
2: おおむね順調に進展している
初年度の研究成果に基づいて、概ね当初の予定通り進展しているといえる。しかしヒトPolηの関与が期待される反応の試験管内再構成で遅延があるなど、全体の計画遂行への影響は少ないものの、最終年度への持越しを余儀なくされた項目もある。一方で、相互作用タンパク質の解析と活性阻因子の探索において次年度以降の展開が大いに期待できる結果も得られている。したがって全体的に評価すると、「②おおむね順調に進展している」と評価できる。
本年度に新規知見として得られた結果に基づいた研究を展開することで、DNA複製阻害の回避機構におけるヒトPolηの構造と機能・制御の全貌に迫れると期待している。
当初の目的で当該年度での使用を予定していた実験を次年度に繰り越したため、該当する予算を次年度に繰り越したため。
研究期間全体を通した研究計画に変更はないため、当該年度で実施を見送った研究については次年度に遂行する。
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