研究課題/領域番号 |
26340029
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
布柴 達男 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (10270802)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 高度好熱菌 / 脱塩基損傷 / 酸化DNA損傷 / 脱アミノ化損傷 / 損傷ヌクレオチド浄化 / pyrophosphatase / AP endonuclease / ゲノム情報維持機構 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、平成26年度に樹立した変異検出系、相同組換え(HR)頻度検出系、遺伝子発現レポーターベクターを用い、i)DNA修復酵素の欠損株の樹立と欠損株における変異頻度やスペクトル、相同組換え頻度の解析、ii)それらの修復遺伝子のプロモーター活性の測定、iii)脱アミノ化ヌクレオチドに対する脱ピロリン酸酵素の候補遺伝子産物の生化学的解析を行った. i)では、脱塩基損傷の修復酵素AP endonucleaseであるnfo候補TTC0482、酸化DNA損傷8-oxoGのglycosylaseであるmutM候補TTC1454に着目した。nfo欠損株において変異頻度とHP頻度はともに野生株と同程度で、バックアップの存在の可能性が示唆された。mutM欠損株ではHR頻度は変化しないものの変異頻度は20倍以上上昇した。 ii)については光回復酵素のphr遺伝子の発現機構に着目した。光回復は紫外線によって生じるピリミジンダイマーの修復系で、高度好熱菌でもその活性が確認されていた。本研究で培養時に可視光に前照射することで光回復能が増強されることを見いだした。今後phr遺伝子発現機構を平成26年度に樹立したレポーターアッセイにより検討する予定である。 iii)では脱アミノ化されたヌクレオチドのpyrophosphataseであるham1候補TTC1290に着目した。Ham1候補であるTCC1290をクローニングし、Ham1タンパク質をGSTとの融合タンパク質として精製し、トロンビンによりGSTを除去し、25kDaのタンパク質のpyropshosphatase活性を、HPLCピークシフトアッセイを用いて検討した。その結果、dITPに対してspecific activity は29 mM-1 sec-1であることが確認できたが、欠損株のHRは野生株とほぼ同程度であり、欠損による影響は見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、生物の生息環境として過酷ともいえる高温環境下で、細菌がどのような仕組みでゲノム情報を維持し、生息可能にしているのかという疑問に答えるため、以下の手順で研究を計画している。 1) 高度好熱菌の遺伝的不安定化の指標となる、突然変異と相同性組み換えの頻度を検出するための実験系を構築し、さらにゲノム情報維持に関わると推測されるさまざまなDNA修復遺伝子などの発現機構を解析するための遺伝子発現レポーターアッセイを樹立する。 2) それらを用い、高温下で生じると推測されるDNA損傷、特に脱塩基、脱アミノ化、酸化による損傷に着目し、様々なDNA修復の候補遺伝子をゲノム情報から抽出し、その遺伝子破壊株を樹立し、その株における突然変異と相同性組み換えの頻度を検出する。 3) 酵素活性の確認されていない機能についてはクローニング~タンパク質精製を行い、生化学的な手法で活性を確認した上で、破壊株を樹立し、突然変異と相同性組み換えの頻度を検出するとともに、遺伝子発現レポーターアッセイを用いて、遺伝子発現様式を確認するという計画である。 現状として、部分的には必要に応じて改良を行っているものの、平成26年度に前述の3つの系の樹立に成功した。平成27年度にはAP endonucleaseや光回復酵素、酸化DNA修復系である8-oxoGに対するグリコシラーゼ、脱アミノ化ヌクレオチドの浄化酵素などを検討した。平成28年度にはそれらを引き続き解析するとともに、新規に、酸化ヌクレオチド損傷8-oxodGTPに対する浄化酵素の同定と破壊株でのゲノム不安定化を微生物遺伝学的なアプローチにより実施しているところである。以上の理由で、達成度は「概ね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、引き続き、i) DNA修復酵素の欠損株の樹立と欠損株における変異頻度やスペクトル、相同組換え頻度の解析、ii)それらの修復遺伝子のプロモーター活性の測定、iii) 損傷ヌクレオチドに対する脱ピロリン酸酵素の候補遺伝子産物の生化学的解析を行う. i)では、平成27年度に検討したAP endonuclease候補TTC0482について欠損による影響が見られなかったことから、もう1つの候補TTP0029について検討を加える。酸化DNA損傷の代表であるmutM候補のTTC1454欠損株において標的遺伝子supFに20倍もの高い変異頻度が確認されたことから、変異supFの塩基配列を確認する。 ii)では、光回復酵素のphr遺伝子の発現機構を検討する。高度好熱菌でも精製された光回復酵素の活性が確認されているが、本研究でその光回復能があらかじめ光照射することで増強されることを見いだしている。ゲノムデータベースによるとphrはカロテノイド合成に関わるcrtBの下流に存在することから、その機構を平成26年度に樹立したプロモーター活性測定系により明らかにする予定である。 iii)では、ゲノムデータベースから酸化ヌクレオチドに対する脱ピロリン酸酵素の候補遺伝子TTC0511、TTC1576に着目し,それらの遺伝子をPCRにより増幅し、発現ベクタークローニングして遺伝子産物を精製し,活性を含む生化学的解析を行う.精製はHis-tag/Niセファロースにより行い,活性は8-oxodGTPなどの酸化ヌクレオチドを基質としてHPLCにおける3リン酸体と1リン酸体の定量により活性を解析する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に実施の脱アミノ化ヌクレオチドに対する脱ピロリン酸酵素の候補遺伝子TTC1290の遺伝子産物の精製に際し細胞破砕装置の購入を考えたが、学内の同機種を利用できることが判明したため、購入をとりやめ次年度に使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に、頻用機器の1つである微量高速冷却遠心機を購入する。
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