研究実績の概要 |
本研究は、植物が生産する二次代謝産物であるフラボノイドについて、その分子構造に起因する抗酸化能と、植物体内あるいは植物細胞内におけるフラボノイドの局在場所に着目して、フラボノイドの新しい植物内生理機能を見出そうとするものである。本年度は、植物種子における外側(種皮)と中側(胚)におけるフラボノイド蓄積パターンが異なるシロイヌナズナ変異体を用いた研究を進展させ、ガンマ線照射種子における電子スピン共鳴(ESR)シグナルを評価した。前年度までに、種子におけるプロアントシアニジンなどのフラボノイドの有無がガンマ線感受性に大きく関わることを見出していたが、ガンマ線に対する感受性が高い系統は、ガンマ線照射後のESRシグナル減衰が弱いことが分かった。また、ガンマ線照射種子から発芽してきた根端細胞を用いた染色体異常を調査し、ガンマ線に対する感受性が高い系統では染色体異常が多く認められる傾向があった。一方で、植物体内で局在するフラボノイドを可視的マーカーとして、植物のゲノム防護機構に迫る研究を実施した。シロイヌナズナのTT4及びTT8遺伝子をヘテロに持つシロイヌナズナを作製し、ヘテロ接合性の消失に基づく遺伝子変異頻度を変異原処理当代で容易に評価する実験系を構築した。本実験系を用いて、育成条件を変えることにより幼苗中のアントシアニンの有無を変化させつつイオンビームやガンマ線による変異原処理を行い、照射植物体が形成する種子におけるtt変異体を選抜した。現在までに約2,000株の照射幼苗を調査したところ、アントシアニンの有無によって変異頻度が大きく変わることはなかった。調査数を拡大することで、アントシアニンの有無によるゲノム防護の程度を更に検討していく予定である。
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