研究課題/領域番号 |
26340035
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研究機関 | 公益財団法人放射線影響研究所 |
研究代表者 |
多賀 正尊 公益財団法人放射線影響研究所, 放射線生物学/分子疫学部, 研究員 (70359462)
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研究分担者 |
濱谷 清裕 公益財団法人放射線影響研究所, 放射線生物学/分子疫学部, 研究員 (80344414)
伊藤 玲子 公益財団法人放射線影響研究所, 放射線生物学/分子疫学部, 副主任研究員 (30283790)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 放射線 / 肺がん / 融合遺伝子 |
研究実績の概要 |
原爆被爆者の肺がん相対リスクが被爆後 50 年以上経過しても高値を示すことが報告されているが、放射線被曝が肺がん発生に影響を及ぼす分子機序は未だ不明である。こうした中、近年、放射線関連甲状腺乳頭がんと散発性肺がんの間で、共通の融合遺伝子 (ALK 融合遺伝子や RET 融合遺伝子) が観察され始めた。そこで、われわれは、「放射線被曝が肺がん発生に関係する融合遺伝子の形成を誘導する」という作業仮説を立てた。この作業仮説を検証するために、1. 被爆者の肺がん組織試料における ALK 融合遺伝子ならびに RET 融合遺伝子を解析し、これらの融合遺伝子を持つ肺がんが放射線被曝と有意に関連することを明らかにすること、そして、2. 被曝により肺上皮細胞にこれらの融合遺伝子が誘導されることを in vitro の実験系を用いて明らかにすることを本研究の目的とした。 原爆被爆者の肺がん組織試料における融合遺伝子の解析に関しては、原爆被爆者の手術由来肺腺がん組織 24 症例を用いて、RT-PCR による ALK 融合遺伝子スクリーニングを開始している。その結果、現在までに、EML4-ALK バリアント 1 と 2 を各 1 症例ずつ同定している。さらに、これらの ALK 融合遺伝子とは異なるパートナー遺伝子を持つ可能性のある症例が数例あるので、解析中である。また、原爆被爆者の剖検由来肺腺がん組織の解析も開始した。 放射線による融合遺伝子の誘導を調べるための培養細胞を用いた実験に関しては、放射線照射によって RET 融合遺伝子が誘導されることが知られているヒト甲状腺上皮由来細胞株を用いて条件検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
原爆被爆者の手術由来肺腺がん組織試料の解析において、ALK 融合遺伝子を持つと考えられるスクリーニング陽性症例のパートナー遺伝子の増幅と同定に時間がかかっている。このため、原爆被爆者の剖検由来肺腺がん組織の解析が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
平成 26 年度に続き、原爆被爆者の肺がん組織試料における融合遺伝子の検出と同定を継続する。また、ホルマリン固定パラフィン包埋保存肺腺がん組織標本由来の RNA から効率的に ALK 融合遺伝子のパートナー遺伝子の増幅と同定するために、SMART RACE (switching mechanism at 5'-end of the RNA transcript rapid amplification of cDNA ends) 法、あるいは、インバース PCR 法の条件をさらに改善する。 放射線による融合遺伝子の誘導を調べるための培養細胞を用いた実験に関しては、平成 26 年度に構築した実験系を基に、肺上皮細胞由来の細胞株を使用して解析する。また、融合遺伝子の絶対的定量が可能となるデジタル PCR を使用した実験系を構築し、放射線との線量関係を調べることを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
原爆被爆者の手術由来肺腺がん組織試料における、ALK 融合遺伝子を持つと考えられるスクリーニング陽性症例のパートナー遺伝子の増幅と同定に時間がかかっている。このため、原爆被爆者の剖検由来肺腺がん組織の解析が遅れ、解析に必要なキットや試薬類に関して使用の少ないものがあった。
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次年度使用額の使用計画 |
原爆被爆者の肺がん組織試料における融合遺伝子の検出と同定を継続し、解析に必要なキットや試薬類を逐次購入していく。 放射線による融合遺伝子の誘導を調べるための培養細胞を用いた実験に関しては、肺上皮細胞由来の細胞株の購入を予定している。また、融合遺伝子を絶対的定量するために、デジタル PCR を用いた実験系を構築する。このデジタル PCR の解析は、外部委託を予定しており、助成金を使用する。
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