原爆被爆者の肺がん相対リスクが被爆後 50 年以上経過しても高値を示すことが報告されているが、放射線被曝が肺がん発生に影響を及ぼす分子機序は未だ不明である。こうした中、放射線関連甲状腺乳頭がんと散発性肺がんの間で共通の融合遺伝子 (ALK 融合遺伝子や RET 融合遺伝子) が観察されることから、我々は、「放射線被曝が肺がん発生に関係する融合遺伝子の形成を誘導する」という作業仮説をたてた。この作業仮説を検証するために、1) 原爆被爆者の肺がん組織における ALK 融合遺伝子などを解析し、融合遺伝子を持つ肺がんが放射線被曝と有意に関連すること、2) in vitro の実験系を用いて、放射線被曝により肺上皮細胞に融合遺伝子が誘導されることを調べることを本研究の目的とした。 原爆被爆者肺がん組織の解析に関しては、手術由来肺腺がん組織 24 症例を用いて、RT-PCR による ALK 融合遺伝子のスクリーニングを終え、現在までに、EML4-ALK 融合遺伝子のバリアント 1 と 2 を各 1 症例ずつ同定している。さらに、これらの ALK 融合遺伝子とは異なるパートナー遺伝子を持つ可能性のある症例が数例あるので、解析中である。原爆被爆者の手術由来肺扁平上皮がん 10 症例についても EML4-ALK バリアント 1 ~ 3 を解析したが、これらの融合遺伝子は検出されなかった。一方、ALK 融合遺伝子とは異なるパートナー遺伝子を持つ可能性のある症例が扁平上皮がんでも見つかった。さらに、原爆被爆者の剖検由来肺腺がん組織についても、現在、解析中である。放射線による融合遺伝子の誘導を調べるための in vitro の実験系に関しては、EML4-ALKを高感度に検出できるデジタル PCR の条件検討を終えた。そして、A549 細胞株に X 線を照射し、EML4-ALK の誘導に関して調べた。
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