研究課題
本課題は脳発達における甲状腺ホルモン(TH)及びTH受容体(TR)の機能を解析し、developmental origins of health and disease (DOHaD)を含めた予防及び、治療に応用するための基礎研究を行うことを目的とする。THは協調運動・多動・認知・記憶・学習といった脳機能と密接に関連した脳部位の発達に重要である。本研究では、 (1) 環境化学物質の脳発達期への影響のスクリーニング系の構築を含めた初代培養系を用いた解析、(2) 甲状腺機能低下モデル動物を用いた解析、(3) (1)(2)の解析結果と近年同定した新規cofactorsの解析を合わせて行った。(1)については既に構築済みの系では、環境化学物質に加え、天然のホルモン様作用を示す物質である大豆ポリフェノール、及び造影剤に用いられる化学物質について解析した。また、線条体の初代培養系を構築した。perfluorooctanesulfonate (PFOS)を用いた研究では周産期における母親のPFOSの経口曝露により、子が成獣になっても小脳機能が低下していることがRotarod testで分かった。PFOSはTRを介する転写には影響はなく、現在2型脱ヨウ素酵素に対する影響を解析している。(2)変異TR(G345R)を小脳Purkinje細胞特異的に発現するマウスを用いてTHの発達期小脳における作用を解析し、Purkinje細胞におけるTRの異常により顆粒細胞他におけるTHシグナル系にも影響を及ぼすことが分かった。Purkinje細胞におけるTRbeta1の点変異のみで機能異常を起こし得ることが分かった。(3)既に同定したbrain-derived repressive molecule(B-ReM)は構造的に似ているcofactorがあることが分かり、血液系の培養細胞に対する影響を解析したが、機能は異なることが分かった。共同研究でSpikerとうcofactorを解析し転写coactivatorであることを示した。
2: おおむね順調に進展している
(1)については目標とした線条体の初代培養系を構築することができた。PFOSを用いた系ではDoHADの影響について解析できた。初代培養系については当初予定していた化学物質に加え、新たな物質(ポリフェノール及び造影剤)の影響も解析した。(2)当マウスの解析により、脳発達期において小脳Purkinje細胞におけるTRbetaの発現も重要であるという新たな知見が得られた。この報告の評価は高く、発表論文の表紙を飾ることができた。(3)B-ReMについてはユビキタスに発現する蛋白であり、様々な臓器における作用が研究対象になりえる。機能解析についても、抑制のドメインを決定するためのコンストラクトを作成した。
(1)引き続き初代培養系を用いて、化学物質の解析を続ける。2型脱ヨウ素酵素(D2) mRNA発現に対しては抑制的に作用していること、また、D2活性に対しては予備実験ではあるが、抑制的に作用していることが分かった。今後、さらに実験を重ねてPFOSによる脳発達に対する影響についてまとめていく予定である。4-Nonylphenol(4-NP)の作用についてもほとんどの実験が終了しており、報告の準備を進める。(2)Purkinje細胞特異的に変異TRを発現するマウスについてはENDOCRINOLOGYに掲載確定した。今後は、できたら環境化学物質やポリフェノールに対する影響や、顆粒細胞系に対する影響を解析したい。(3)引き続き、B-ReMの機能解析を行う。解析の過程で解析対象臓器が当初の予定より多くなる可能性がある。
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